心臓数理モデルとしてウサギの心室筋細胞のモデルであるShannonモデルを用いて早期後脱分極(EAD)以外の不整脈の発生について調査した.正常脈,EAD,遅延後脱分極(DAD),頻脈や心室細動が発生するパラメータ領域を丁寧に調べ,L型カルシウムイオン電流と細胞内ナトリウムイオン濃度の増減の組合せでそれらの不整脈が発生することを明らかにした.詳細な分岐解析を行うことにより,各状態が安定に存在するパラメータ領域を特定した.それらの情報を基に,細胞内ナトリウムイオン濃度を常微分方程式の変数としたシステムにおいては,時間変化と共にDADから頻脈を経て心室細動に至る現象や,正常とDADを繰り返す状態から持続的に正常に戻る現象などを再現することに成功した. ウサギのモデルであるShannonモデル以外のモデルとして,ヒトの心室筋細胞モデルであるO’hara モデルを用いて解析を行った.同モデルでは,Shannonモデルでは14種類だったイオン電流が15種類であるために,令和2年度に開発したマルチコアCPUを用いた並列処理分岐解析アルゴリズムを使用して効率的に,持続性EADの発生に寄与するイオン電流を探した.結果として遅延整流カリウムイオン電流の減少が重要であることを明らかにした.細胞内のナトリウムイオン濃度やカリウムイオン濃度をパラメータ化したシステムの分岐解析を行うことにより,それらの濃度を常微分方程式の変数としたシステムの一過性現象を説明できることを示した.
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