研究課題/領域番号 |
20K11854
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
福田 育夫 兵庫県立大学, 情報科学研究科, 特任教授 (40643185)
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研究分担者 |
森次 圭 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任准教授 (80599506)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 相互作用計算 / 力学系 / 運動方程式 / サンプリング / 数値積分 |
研究実績の概要 |
分子動力学 (MD) シミュレーションは,生体高分子系や機能材料系等さまざまなマクロな系の分子レベルでの解析を可能にする.本研究では,MD計算において状態サンプリング法の深化により大規模・複雑系での状態サンプリングを頑強にし,かつ相互作用計算の精密化を行うことでシミュレーション結果の信頼性を上げる. 先行研究において開発した合成系密度力学(DDD)法では,非常に計算コストのかかるイテレーション作業や,計算資源の要するレプリカ系が不要だという実用上の大きな利点がある.この手法が大規模・複雑な系において真の力を発揮するために,より頑強なサンプリングを実行し,高効率で容易なシミュレーションを実現するための技術開発を継続した.具体的には環境系のポテンシャル関数を高次元曲面化して,分布を任意の層構造で記述することで,深層のパラメタ変動ダイナミクスを構築できた.これにより,軌道の固定点への接近を回避できて,頑強なダイナミクスが実現可能になる.加えて,実用上重要になるシステムパラメタ値の割り当て法を検討した. また,生体分子系等のヘテロで複雑な系で,信頼性の高い計算を遂行するためには,精度をさらに上げる方向の研究が必要であり,このために,従来の経験的関数にとらわれない,相互作用計算の精度を上げる方法を検討・開発している.具体的には,電荷の集合を連続的な電荷分布として表現し,その電荷分布を効率的に求める連続的アプローチによる相互作用関数形の新たな定め方を構築し,それによる精度向上の仕組みを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
より頑強なサンプリングの実現に向けた具体的方法として,分布を多層化し,分布iのパラメタを分布i+1で駆動する仕組みを検討した.多層構造の柔軟性にも着目しつつ理論構築を行い,この仕組みの構築に成功した.対応する常微分方程式は予想していたよりもシンプルな形をしており,数値解法の際の計算コストを,今まで開発してきたDDD法と基本的に変わらないようにすることもできた.こうして,前年度から予定していたように,環境系のポテンシャル関数を高次元曲面化して,分布を任意の層構造で記述することで,深層パラメタ変動ダイナミクスを構築できた.得られた分布を評価するための統計的検証法についても検討した. また,環境系の自由度が上がることで,システムパラメタ数が増加するため,これらの値を効率的に与える方法を開発した.分布の収束にも関わる値なため,実用的に重要である.具体的には,環境系の常微分方程式をローカルに捉えることで近似的に振動子集合的に記述し,これを支配する環境系のポテンシャル形状から有効振動数を求め,それを物理系の振動と対応させる方法を作った. 新規相互作用計算法については,基本的に原子毎に定める2体関数を求める方針として,電荷集合を連続的な電荷分布として表現し,その分布を効率的に求める連続的アプローチを検討した.繰り返し法や統計推測法などの複数の指針を得た.共通する方針は,既に代表者らが開発している零多重極子法で成立している,電荷の値とその位置に関する近似条件式よりも強い近似条件式を要求することで,計算精度を上げるものである.加えて,原子毎に要求するため,ヘテロ系での効果を十分発揮すると期待される.また連続的アプローチとは別のアプローチとして,近似条件式を代数関係式とみなして,その解から分布を求める方法を検討した.
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今後の研究の推進方策 |
パラメタ変動ダイナミクスについては,今年度得られた方法について,生体分子系等で数値的に詳細に検証する. 新規相互作用計算法については,連続的なアプローチについて複数の指針を得たので,それらを吟味し数値的に検証するとともに,代数的方法の検討も継続する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)主に,学会および研究打ち合わせ等のために計上していた旅費を執行しなかったため. (計画)計算機環境を強化するため等の支出として使用する予定である.
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