研究課題/領域番号 |
20K11858
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
石川 正 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, シニアフェロー (90184481)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多次元数値積分 / 特異性を有する被積分関数 / HPC / ファインマンループ積分 |
研究実績の概要 |
本研究課題は被積分関数が積分領域内で発散するような内部特異性がある多次元積分の計算アルゴリズム及び高速化について研究を行うことである。被積分関数が端点(端面)に特異性がある場合には、二重指数関数変換を用いることによって、積分の値を精度よくかつ収束性が速く求められることがわかっており、これまで我々が問題として扱ってきた素粒子物理学で出現するファインマンループ積分の数値積分計算に適用してきた。ファインマンパラメータ積分の被積分関数は、1/(V-iρ) のような形をしている。V はN次元積分変数の多項式で記述される。積分区間は全て[0,1] に帰着することができる。分母にregulator ρをおいて発散を回避して解析接続する方法があるが、我々はregulatorそのものに数値的に値を与え、数値積分でいつくかI(ρ) を求め、加速法で数列I(ρ) をρ→0 の極限を求める。上の式でV(x_1,x_2,,,x_n )=0 となるのがこの積分空間内の特異性平面である。1次元の場合は、V(x)=0 となる点で、区間分割してそれぞれで二重指数関数変換をして求積することができる。分母のiρで積分を有限化している。これを多次元空間に拡張するには、特異性平面の解が必要であるが、解析的にその面を求めるのは一般に難しい。このため、特異性平面を見つけつつ、数値積分を同時に行う方法を考える。まずは各次元 1/2ずつ分割して特異性平面を含むかどうか判定し、含まれていなければその小hypercube空間での積分値とする。もし特異性平面を含めば、さらに辺を1/2にした積分空間内を計算することにする。この区間均等分割法のアルゴリズムでは、分割する度に演算量が増えるので、プログラムの並列化は必須であり、効率良い最適な方法について研究を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
区間均等分割法の実装の前に並列化の高いプログラム開発を行なった。多次元積分を通常の求積法で求めるため、次元数のループがあり、並列化は三段階で行う。それぞれ高い並列化を実現するには、次元毎の複数のループを融合して1つのループとして扱う。任意の複数の次元を1次元ループに融合できるジェネレータを作成した。最大14次元までを想定した。第一段階の並列化は外側のMPI並列である。但し、さらに最外側の次元をバラバラに実行するジョブ並列化も可能である。第二及び第三段階の並列はブロードキャスト方式のgrapeアーキテクチャ用の2重ループである。これは最内側に設定している。またメモリの制約がある場合もあり、これらの最内側の二重ループを分割できるようにしている。これらのプログラムにより、MPI並列したメニーコアシステムを始め、アクセラレータシステム、ベクトル計算機を始め我々が開発した多倍長専用のgrape9mpxシステムなどに適用できる。この研究にとって基盤となるプログラムであり、開発と評価を行なった。 すでに解析的な答えがわかっている、例として1ループの散乱問題を扱った。この場合、3変数の最大三次式の多項式となる。均等分割法の前にV(x)=0となる点を求め、区間分割して数値積分を行い、答えが求められることが確認された。regulator ρ が有限であるため、特異性平面でも被積分関数は有限である。この平面に沿って被積分関数の山あるいは谷がある(以下山と称する)。特異性平面がある軸の平面と並行になる場合、この山と直角となる次元での積分は、二重指数関数変換が端点に積分変数を多く振るので、端点近くの振る舞いを捉えることができる。しかしながら、山と並行な軸方向については、分点数を増やす必要があった。より効率的な方法について検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
基盤となる並列コードは作成できたので、サンプル関数を与えて均等分割法のアルゴリズムの評価を行う。まずは1ループファインマンループ積分の被積分関数の3次元問題に適用する。内部特異性の領域の可視化が容易でかつ解析計算との比較が可能である。その後、2ループファインマンループ積分の6次元積分問題まで1次元づつ積分次元をあげて評価を行う。評価するのは、基本的な数値積分のパラメータである。二重指数関数変換の場合、[0,1] の区間を [-∞,+∞] に変換するが、数値積分では後者の領域は、[-T,+T] のように有限空間である。-T の時に、元の積分変数としては0に近い数である。また二重指数関数変換後は、台形公式を用いるので、h=2T/N_d がメッシュ幅であり、この2つのパラメータで制御する。また、regulator ρ の取り方も大きな要素である。特異性平面に沿った山の険しさになる。一般的にはregulator ρ が小さくなる程、積分の精度の収束性が悪くなるが、Wynnなどの加速法での収束が早いと考えられる。これらのパラメータと計算時間および最終的な積分結果の精度の関係を調査することになる。なお被積分関数内でも物理的なパラメータを入れることができるので、これらもスキャンする。これらは、Threadripper(64 core) を用いて開発を進めたが、多次元化すれば、するほど計算量は指数関数的に増加するので、GPGPU等のアクセラレータシステムなどの併用は検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
小規模の並列計算機としてGPGPUを検討することにしたため、当該年度での予算では困難と判断したため。
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