研究課題/領域番号 |
20K11860
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
黒岩 眞吾 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (20333510)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 失語症 / 語連想 / 語想起 / BERT / 深層学習 / 言語訓練教材 / 言語訓練アプリ |
研究実績の概要 |
(1) 深層学習言語モデルであるBERTを利用して語連想(提示された刺激語に対し,単語を自由に連想するタスク:広げる想起)を模擬する手法の検討を行った.比較対象としては,『連想語頻度表』(水野・他,2011)を用いた.その結果,Attention機構を利用できるように文を加工することで人間の連想に近づけることは可能なものの,一致率は低かった.特に,言語情報のみから学習したBERTでは,色や形状などの連想語が出力されにくいことが明らかとなった.これは,人間の語連想では語から語の言語的な連想に加え,内的なイメージを経由して連想が行われており,それを模擬できていなかったことが原因であると予想している.今後は,下記(2)の語連想と統合し,イメージを経由した連想模擬を検討する. (2) 画像を入力してその画像に含まれる物の名称や,その画像の説明を出力できる深層学習モデルを利用して,その結果から連想語を生成する手法の検討も行った.その結果,一般画像に対しては,未だ画像認識の精度が不十分なことがわかった.また,色に関する連想語の抽出に向けた検討では,画像中の刺激語となるオブジェクトが正しく認識されればある程度の精度で正しい色が抽出できることがわかった.一方で,カレーの画像から抽出される色は多くの場合,茶色であり,黄色ではないこと等,心象として人が持っている色と物体から観測される色が必ずしも一致しないことが明らかとなった. (3) 「失語症教材チーム」に協力して,パワーポイントを用いた呼称訓練教材の作成に着手した.また,ヒント単語群を提示して,そのカテゴリ名を音声で回答させる「まとめる想起」と呼ばれる換語教材のWebアプリのプロトタイプを作成した(話者照合でログイン可能).この際,回答が厳密な正解カテゴリ名でない場合でも,埋め込み空間の単語間距離から類似度を判定し提示する手法の検討も開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
対面での打ち合わせが困難だったため,人を対象とした実験に基づくデータ収集および,タブレットアプリの開発が行えなかった.タブレットアプリに関してはタブレットの共用等が感染予防の観点から困難なため,パワーポイントやWebアプリとしての実現に変更し着手を開始しており2021年度中を目途に実験協力機関に配布できるよう開発を進めることとなった.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 語連想の模擬については,刺激語に対応する画像を経由した連想機能を組み込むことで,より人間の連想に近い連想語を出力可能な言語処理モデルを構築する.並行して,『連想語頻度表』のデータを補強するために,健常者および高次脳機能障害を持つ人を対象に語連想課題を実施しデータの収集を行う. (2) 初年度は,画像認識にWeb上で使用できるAPIを用いていたが,性能が十分と言えなかったことから,公開されている様々な深層学習モデルを利用することも検討する.また,色や形状など,心象イメージと実際の物理量が異なるものに関する検討も行いたい. (3) 高次脳機能障害を持つ人向けのパワーポイント教材の作成を継続しするとともに,Webアプリの開発も推進し,高次脳機能障害を持つ人の訓練データを簡便に集められる環境の構築を目指す.これは,将来的に上記(1)(2)の研究で構築した言語処理深層ニューラルネットワークの一部を欠損させて失語症状を模擬できるようにしたのち,それを効率よく再学習する方法を考案し,その方法が実際の失語症状を持つ方の訓練に有効であるかを実証するためのプラットフォームとなるものである.なお,発声を伴うことによる訓練効果,および音声だけでの操作を可能とするため,話者照合,音声認識,音声合成の利用も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響で,人を対象としたデータ収集を行うための謝金,および,学会発表のための旅費を,次年度に持ち越すこととなった.
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