我々が日常用いている音声(聴覚言語)やろう者(聴覚障害者)が用いる手話(視覚言語)は実時間で情報伝達・コミュニケーションを行う対話型自然言語である。これら対話型自然言語における韻律(プロソディ)は実時間での言語理解を助けたり、実時間コミュニケーションを制御するのに用いられると考えらえれる。そこで、これら対話型自然言語における韻律の機能を解明するため、日本語音声と日本手話のそれぞれについて分析を行った。日本語音声については、感情音声データベース(OGVC)の演技音声について、声の高さ、大きさ、音色(スペクトル)の音響特徴量と感情強度の関係を分析した。また、各種音声データコーパスを用いて、声の高さに関する藤崎モデルパラメータにおける基底周波数の自動推定手法の提案と評価を行った。日本手話に関しては、基盤研究(S)「多用途型日本手話言語データベース構築に関する研究」(分担:堀内靖雄,2017-2021)で収録されたデータについて、手の物理的座標と言語学的な分類との関係を分析し、手の特定の部位(単語ごとに異なる)の位置座標が言語学的な位置を表現しており、形態素の弁別等に利用されていることが明らかになった。手の動きの音素に関する解析を行った結果、日本手話の手の直線運動の動きは上下左右前後の6方向の音素が存在することが示唆された一方、図像性の高い手話表現に由来する単語については、斜め方向の動きも観察され、音素から語が形成されるのではなく、その手話表現自体が意味を有する形態素として語を形成していることが示唆された。また、日本手話の会話データを分析した結果、手の動きを保持する動作は、手話空間に手形を留め置くという韻律上の表現によって、相互行為上の問題の解決に適切に利用されていることが明らかになった。
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