研究課題/領域番号 |
20K11872
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
金田 豊 東京電機大学, 工学部, 研究員 (20328511)
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研究分担者 |
池田 雄介 東京電機大学, 未来科学研究科, 准教授 (80466333)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピーカ特性 / インパルス応答 / 反射音低減 / 群遅延 / 逆フィルタ / 騒音低減 / 等価音源モデル / 虚像法 |
研究実績の概要 |
本研究は、インパルス応答を用いたスピーカの特性測定を一般室で行う場合、妨害要因となる反射音及び雑音の影響を低減することを目的とする。 一般に室内騒音は低周波成分が大きく、測定結果に対するSN比が低周波域で劣化する。この問題を改善する測定信号として、ESS信号などが提案されてきたが、帯域ごとのインパルス応答ピーク値対雑音レベルは、変動が大きいケースが見られた。本研究では、実験室の雑音と伝達関数を予備測定することにより、周波数によらず一定の雑音レベルを持つインパルス応答を得る測定信号(BMN信号)を検討した。令和3年度は、その理論的裏付けを補強し、学術論文を作成した。 次に、無響室における反射音の影響の低減方法を検討した。最初に、得られた周波数特性の山谷の間隔から反射音の到来時刻を推定した。そして、直接音波形を遅延させて反射音部分から減算した。しかし、反射音はスピーカの斜め方向に放射された音波であるので、指向特性の影響を受けており、直接音とは異なった波形となっているため、結果は不良であった。そこで、反射音部分を切り出して周波数分析して、反射音の振幅スペクトルを求め、それに直接音の位相特性を付与して、反射音波形を推定し、減算した。その結果、無処理時に見られた周波数特性の山谷が大幅に低減された。(金田) また、音の物理モデルとして等価音源と平面波を用いた少量計測からの反射音の推定方法を検討した。特に、反射音の空間的構造が明確な初期反射音に対して等価音源を用いたモデル化を行い、空間的構造が不明瞭となる後期反射音に対しては平面波分解を用いることで、反射音をモデル化する手法について検討した。反射音次数が増えるにつれて、大域最適解を求めることが困難となり、推定精度は不十分であったが、時間領域において問題を適切な規模となるように分解することで、推定精度が向上することが明らかとなった。(池田)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・ 昨年度判明した無響室の低周波数反射音に関して、その到達遅延時間と周波数特性を推定し、影響を軽減することができた。ただし、反射音が完全には除去できたわけではない。今後は、令和3年度の結果である、反射音の影響を軽減したインパルス応答を用いて、群遅延特性を推定して、当初の目標であった群遅延逆フィルタによる反射音の低減を目指していく。 ・ 継続検討中であった、周波数によらず一定の雑音低減を実現するインパルス応答測定信号(BMN信号)の効果を理論的に検討し、有効性の裏付けを得て、米国オーディオ技術学会誌(Journal of Audio Engineering Society)に投稿し、採録が決定した。(金田) ・ 等価音源を用いた反射音場のモデル化手法における反射音次数の増加に伴う推定精度の低下という問題に対して、令和3年度は、時間領域における信号分解を適用したモデル化手法について検討した。提案した分解手法については、国際会議InterNoise2021にて発表を行った。反射音全体の推定精度については改善の余地があるが、検討の中で、時間領域における分解によって推定精度が大幅に改善可能であることが示唆された。今後は、特にこれまで有効であることが明らかとなっている初期反射音成分の推定を反射音場の可視化や音場制御に応用することを検討する。(池田)
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今後の研究の推進方策 |
(1) 反射音の影響下でのスピーカの群遅延特性の推定:低周波数に限定すれば、近接(10 cm程度)音場測定は、通常距離(1, 2 m)測定と等価とみなせることを利用して、スピーカの群遅延特性を推定する。次に、令和3年度に開発された手法を用いて、通常距離においてインパルス応答に含まれる反射音の影響を軽減し、それより、群遅延特性を推定する。結果は、近距離音場の測定結果を正解とみなして比較評価を行う。 (2) 群遅延逆フィルタによる反射音の低減:無響室において、推定した群遅延特性より、群遅延逆フィルタを構成する。測定した反射音が付加されたインパルス応答に、この群遅延逆フィルタを動作させて、インパルス応答の時間方向圧縮を行い、その後、インパルス応答を反射音到来時刻までの短時間で切り出して、反射音を除去し、周波数特性を求める。求めた結果は、近距離音場測定結果と比較して評価する。(金田) (3)反射音場の可視化:等価音源を用いた反射音場モデルは、反射音の空間的な構造に基づいて反射音ごとに信号を分解可能であることを利用し、散乱体の反射音場のみを可視化する。散乱体を取り囲むマイクロホンアレイで計測された信号から、スピーカから出力された入射音場を取り除き、散乱音場のみを取得し、その伝播を推定する。推定結果は、推定位置での計測結果を正解とみなして評価を行う。 (4) 多チャンネル音場制御への応用:等価音源法に基づいた音場モデルを用いて、部屋の残響やスピーカの音響特性の影響を低減する多チャンネル音場制御を行う。少数のマイクロホンで計測されたインパルス応答から、その周辺領域のインパルス応答を推定し、逆問題を解くことでスピーカの駆動信号を求める。制御結果は、他の音場制御手法と比較して評価する。(池田)
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、コロナ禍で、学会がオンライン開催となったため、出張費が大幅に減少したこと、および、所属研究室の他研究者と研究機材の共用が可能であったため、未使用分が発生した。この未使用分は、令和4年度に、コロナ明けで所属研究室において機材の利用の活発化が予想されるため、共用が困難となる騒音計(概算30万円)の購入にあて、また、研究成果発表の学会出張費の増加に充当を予定している。その他、音場のモデル化における最適化処理や数値シミュレーションの高速化を行うため、数値計算用GPUの購入(概算95万円)への充当を予定している。
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