研究課題/領域番号 |
20K11875
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳田 功 立命館大学, 理工学部, 教授 (00261389)
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研究分担者 |
石村 憲意 立命館大学, 理工学部, 助教 (50779072)
西村 剛 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (80452308)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 仮声帯振動 / 嗄声 / 喉歌 / 実体模型 / 摘出喉頭吹鳴実験 |
研究実績の概要 |
声帯上部に位置する仮声帯は、通常の発声においては振動しないが、発声障害がある場合や、特殊な歌唱を行う場合には、声帯と同時に仮声帯も振動する「仮声帯発声」が起こることが知られている。本課題では、実体模型実験と動物の摘出喉頭吹鳴実験、さらには数理シミュレーションを基軸に、発声時に仮声帯振動を引き起こすメカニズムを明らかにすることを目的として、研究を行なった。 まず、シリコンで喉頭を模擬した物理実体系では、M5モデルと呼ばれる声帯物理モデルを仮声帯に、MRIモデルを声帯に用いて吹鳴実験を行った。左右の仮声帯間距離を十分に近づけたところ、声帯振動と同時に仮声帯振動が起こることが分かった。特に、仮声帯と声帯は1対1の周波数比で、反相の関係で同期し、発声効率は、仮声帯がない場合に比べて向上することが分かった。これは、トゥバのフーメイ、モンゴルのフーミーなどの喉歌の歌唱でみられる仮声帯発声に対応すると捉えることができ、喉歌で効率的に発声する際に有利な性質であると考察した。 さらに、物理実体システムの発声メカニズムを説明するため、2×2質量モデルを構築して数値シミュレーションを行った。仮声帯と声帯の固有周波数比が近い場合に、1対1の反相同期が起こり、実体模型実験が再現できることを確かめた。これは実験において、仮声帯と声帯の間の空力学が両者の相互作用として働き、個々の固有周波数が同期率を決めることを示唆している。 最後に、ブタの摘出喉頭を用いて吹鳴実験を行ったところ、仮声帯と声帯が不規則に振動する状況が多く観測された。この状況は嗄声に対応するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、一年度目には、実体模型実験を行い、数理モデルを構築することができた。これらの結果を学術論文として出版することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 2020年度に仮声帯として用いたM5モデルは、声帯のモデルとして開発されたものであり、実際の仮声帯とは若干の乖離があった。このため今後は、よりヒトの仮声帯の解剖学的な構造と生理学的な構造に近い仮声帯モデルを構築して、仮声帯振動の実験を行う。特に、CTデータから人の仮声帯の構造について体系的に調査したAgarwal(2004)のX線断層撮影による調査研究に着目し、新規の仮声帯物理モデルを作成し、声帯のMRIモデルと合わせた吹鳴実験を行う。さらに、仮声帯と声帯の両方の振動状態を同時にモニタするため、高速度カメラを仮声帯側と声帯側の両方から同時撮像する。 2. 数理モデルでは、声帯および仮声帯の左右方向の振動に加えて、上下方向の動きを考慮に入れた二次元モデルに拡張する。声帯および仮声帯の内転レベルや固有周波数を変えることによって、1対1以外の周波数比やカオスの出現するメカニズムを解明する。 3. ヒトに近い仮声帯を有するアカゲザルの発声に着目して、摘出喉頭の吹鳴実験を行う。研究分担者の所属する京都大学霊長類研究所にはアカゲザルのサンプルが豊富に存在する。仮声帯を内転させて、仮声帯が振動する場合と振動しない場合を比較し、物理モデルとの比較を行う。また、摘出喉頭標本の高解像度MRIデータを解析し、幾何学的形態を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外渡航による国際共同研究がコロナ禍でキャンセルとなり、予算に余裕の生じる結果となった。未使用額は次年度の実験機器購入にあてる予定である。
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