研究課題/領域番号 |
20K11893
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研究機関 | 長野大学 |
研究代表者 |
富永 昌二 長野大学, 企業情報学部, 研究員 (10103342)
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研究分担者 |
田中 法博 長野大学, 企業情報学部, 教授 (90387415)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 質感計測 / 質感解析 / 質感再現 / 光沢と蛍光 |
研究実績の概要 |
質感に重要な役割を果たす光沢と蛍光を有する物体の見え(アピアランス)を計測・解析・再現する総合的な技法の確立を目指している.本年度の実績は下記の通り.①蛍光物体は蛍光発光を含むので一般物体に比べて質感が向上する.昨年度,近接した蛍光物体について相互照明効果をもつアピアランスを合成する方法を開発し,今年度は,近接配置を想定せず一般的なシーンを想定している.リアルなアピアランスをレンダリングする方法を検討し,実装はMitsubaレンダラーで開発中である. ② 物体の分光反射率は物体に固有の物理情報で,アピアランスの決定には重要でる.デジタルカメラで取得した画像データから物体の分光反射率を推定する新しい方法 LMMSE estimatorを考案した.そしてスマートホーンのカメラを用いたマルチスペクトルイメージング系を構築した.LMMSE推定器は,良く知られたWiener推定器よりも推定精度が向上することを理論的に証明し,実験的にも検証した. ③ 複数光源の照明環境下で取得した分光画像から,物体アピアランスの推定と再構築する手法を考案した.全体的アピアランスは,色因子とシェーディング因子の組み合わせで決まるので,2因子の重みを変更することで,アピアランスを再構築できる.手順は,(1) 照明光推定、(2) 反射率推定、(3) シェーディング項推定、(4) 反射モデルによるアピアランス再構成,の 4 段階からなる.提案法を実環境で検証した. ④ 局所最適反射率データセットを使用してカメラ応答から分光反射率を推定する新しい方法を考案した.分光反射率データベースから,分光反射率を最適に推定する候補を決定する. 提案法は,(1) 局所的に最適な反射率データセット選択, (2) 局所的最適なデータセットのみを使用した最良推定値の決定,という 2 段階で構成される.実験で推定精度の向上を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず光沢を有する物体の見えの計測では,シーンを撮影した画像からハイライトを検出する手法を開発した.蛍光物体の計測では,近接した蛍光物体の相互反射の観測システムはすでに完成し,現在近接条件をもたない設定でのシステムを実験的に検討している. 質感解析では,光沢物体の分光画像を,色に依存する分光反射率の因子(色因子)と形状に依存する因子(シェーディング因子)に分離して解析した.これら2つの因子を個別に画像から推定するアルゴリズムを開発してので,光沢物体の見えの再現問題を解決することができた.つまり2つの因子の重みづけを変えることにより,光沢のないマットな見えから,強い光沢の見えまで再現できることがわかった.蛍光物体の質感再現では,対象物体を近接2物体からより一般的な相互照明効果を検討している. また質感の計測と解析のためのスマートホーンを用いた簡便なシステムを開発した.現状は分光反射率推定に利用しているが,今後,光沢や蛍光を含む物体への具体的応用を検討する.
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今後の研究の推進方策 |
質感計測について,まず漆器について,真正漆器・合成漆器の代表的サンプルについて詳細な計測実験を実施する.これは形状計測と光反射計測からなる.蛍光物体の計測で,不均一照明下でより一般的な相互反射の実験系を構築する. 質感解析では,まず漆器の光反射をモデル化して,真正と合成を判別する手法を検討する.光沢の解析にはまずダイナミックレンジの広い金属光沢を対象とする.現存する材質画像データベースの多くは,量子化レベル8ビットという低ダイナミックレンジ(LDR)画像からなるので,金属物体等のカメラ画像は多くの画素値で飽和している.つまり撮影画像では高光沢やハイライト領域は物理的に情報が消失している.そこでまずこのようなLDR画像から,消失した情報を復元して物理的に正しいハイダイナミックレンジ(HDR)画像を再現する方法を開発する.これに基づいてHDRを表示可能なディスプレイ上で光沢感の視感評価実験を実施する.そして光沢物体の計測画像から光沢感を予測する方法を検討する. 質感再現では,蛍光物体の見えの再構築を,より一般的な不均一照明下での拡散相互反射をモデル化し,リアルな見えを再現するレンダリング法を検討する.漆器を含む光沢物体の見えの再構築をHDR画像に基づいて,物理的に正しくまた視感評価的に優れたアピアランスを生成することを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19が長引いたため海外・国内出張(研究発表と共同研究)が十分できなかった.現在これの制約がほぼなくなったので,次年度国内外出張を実施する.またこれに伴った消耗品の支出及び実験補助者の採用も検討する.
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