研究課題/領域番号 |
20K11907
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
小鷹 研理 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 准教授 (40460050)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 身体変形 / ラバーハンド錯覚 |
研究実績の概要 |
前年度の「推進方策」で述べたとおり、ダブルタッチによる自己誘導型の身体変形錯覚に関する研究を主に進め、複数の実験を実施した。主な成果として、2つの実験内容と結果の概要を述べる。 1)ダブルタッチ錯覚とセルフタッチ錯覚(ソーマティックラバーハンド錯覚)における同期触覚刺激の効果を検証したところ、いずれについても刺激の同期によって錯覚の効果が高まることが認められた。また、主観評価では、変形感覚に対する効果に差異は見られなかった。錯覚中に、Rタッチ(ラバーハンドへのタッチ)の主観的な位置について、頭部に装着したHMDトラッカーによってトラッキングする課題を与えたところ、セルフタッチの場合、RタッチがSタッチ(被験者の指へのタッチ)の方へとドリフトするものが一定の割合でみられる一方で、ダブルタッチ錯覚の場合、Rタッチの位置は動かないことがわかった。この結果は、ダブルタッチ錯覚の場合、錯覚の対象となる身体の一部に対してドリフトの抑制が作用し、選択的に身体イメージの変形を誘発する特性を有することを示すものである。 2)ダブルタッチ錯覚における錯覚効果について、ダブルタッチ間の距離を第一の要因とし、ダブルタッチを指の軸方向に配列する条件(distal配置)と横に並べる条件(lateral)の二つのレイアウトで比較した。その結果、a) lateral配置よりもdistal配置で、錯覚効果が強いこと、b) lateral条件では2~4cmを境に錯覚効果が有意に減退する一方で、distalでは6cmの範囲ではそのような閾値が見当たらないこと、3)配置に関わらず、所有感・変形感・麻痺感(ナムネス)の3つの指標において、主観強度が正の相関を示すことが見出された。これらの結果は、ダブルタッチ錯覚における身体変形が、変形軸上に複数の関節が存在することを要件とすることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「姿勢による上下方向感覚の反転」の実験に関しては、論文誌への投稿を済ませたが、採択に至っていない。当初の計画から照らせば、進捗は全く遅れていると言わざるを得ない。他方で、すでに課題の軸足をダブルタッチ錯覚における身体変形誘導へとシフトしており、この領域では、当初まったく見込んでいなかった新しい知見が次々と得られている。ダブルタッチ錯覚において、一方のタッチは被験者自身の指について適用されるものであり、これは従来のラバーハンド錯覚のパラダイムでは、錯覚を否定するものと捉えられていた。本課題では、適切な配置を選ぶことによって、この錯覚抑制が選択的に身体変形を引き起こすことを見出しているところであり、ダブルタッチ錯覚を反転投射の一つの容態であると解釈して、最終年度も研究をすすめる。
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今後の研究の推進方策 |
ひきつづき、ダブルタッチ錯覚において誘導される身体変形の主観像に関する特異性を検証する研究をすすめていく。とりわけ、前年度で得られた知見を、実験を一部修正するなどして、論文誌としてまとめ、対外的な場で発表することに力点を置く。加えて、研究の成果を体験を通じて対外的に発表する一般の場を設け、本課題の成果を積極的に外部へと還元していく。
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