研究実績の概要 |
自他の指を同時に触れることで、自分の指が他人の指へと接合され指が伸びたように錯覚するダブルタッチ錯覚による身体像の変調に関する心理学的効果について、ひきつづき検証を行った。本年度は、接触点を増減させることにより、錯覚感度がどのように変化するかを詳細に検証した。具体的には、ダブルタッチのレイアウトにおいて、親指以外の4本の指を用いて、ダブルタッチ(人差し指・中指)、トリプルタッチ(人差し指・中指・薬指)、クアドタッチ(人差し指・中指・薬指・小指)による主観評価(身体所有感・身体変形間)を比較した。その結果、ダブルタッチとトリプルタッチとの間では錯覚効果に有意な差は生まれなかった一方で、トリプルタッチとクアドタッチとの間では、錯覚の感度に統計的に有意な向上が見られた。以上の結果は(1)感覚間同期の要素数を増加させることで錯覚の効果が高まること、(2)その効果は増加量に対して非線形であること、を示唆するものである。
皮膚領域に選択的な身体像変形を誘発するスライムハンド錯覚の効果について心理実験を実施し、その主観的効果の詳細を検証した。実験の結果、(1)スライムハンド錯覚を誘発するにあたって、スライムが手の形状を有している必要がないこと(2)固有感覚の移動感はなく、皮膚が伸長する感覚のみが存在すること、(3)40cmのスライム伸張に対して, 平均して約 30cmの皮膚変形距離が計測された。以上は、ラバーハンド錯覚による古典的パラダイムをはみだすものであり、スライムハンド錯覚が、皮膚領域に固有の錯覚であることを強く裏付ける結果となった。
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