研究課題/領域番号 |
20K11920
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
大塚 作一 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (90452929)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視覚 / ハイダイナミックレンジ / HDR / グローバル / トーンマッピング |
研究実績の概要 |
近年、ハイダイナミックレンジ(HDR)テレビ放送など、現実の視環境を再現するための撮像・表示技術の進歩は目覚ましい。加えて、個人向けスマートフォン・タブレット端末などの普及により屋外においてもディスプレイが身近に利用されるようになった。このような状況においては、個人差と使用環境の多様性を念頭に、従来知られていなかった人間の視覚特性を改めて丹念に解明し、工学に応用する必要がある。 本年度は、未曾有のコロナ禍の影響で、各地への遠征が必要となる多彩なHDR画像の収集や対面作業が中心となる視覚心理実験を予定通りに行うことが極めて困難であった。そこで、その代替として、より基礎的な研究に重点を置き、助成事業採択前から続けていた研究の成果を丹念にまとめた。 その結果、(1) 人間は、多くの視覚経験を積んだ視環境においては、HDR環境そのものの情報ではなく、原則的にグローバル処理に基づいた一定のルールに則って情報を圧縮し、SDR(標準ダイナミックレンジ)に近い状況で表象(NVP; Normalized Visual Percept と名付けた)を記憶していることが示唆されること、(2) 正常色覚者(3色覚者)において、従来単純に考えられていた常に2組の反対色(R-G, Y-B)で色の距離を知覚している(つまり均等色空間の概念を有する)のではなく、視環境によっては2色覚者と同様な色知覚を行うこと、(3) 半側無視患者の協力を得てサポートツール(部分拡大ツール)を開発する過程で視野周辺の枠の配置に非常に大きな個人差がある可能性が示唆されたこと、などを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、未曾有のコロナ禍の影響で、各地への遠征が必要となる多彩なHDR画像の収集や対面作業が中心となる視覚心理実験を予定通りに行うことが極めて困難であった。そこで、その代替として、より基礎的な研究に重点を置き、助成事業採択前から続けていた研究の成果を丹念にまとめた。 その結果、(1) 人間は、多くの視覚経験を積んだ視環境においては、HDR環境そのものの情報ではなく、原則的にグローバル処理に基づいた一定のルールに則って情報を圧縮し、SDR(標準ダイナミックレンジ)に近い状況で表象(NVP; Normalized Visual Percept と名付けた)を記憶していることが示唆されること、(2) 正常色覚者(3色覚者)において、従来単純に考えられていた常に2組の反対色(R-G, Y-B)で色の距離を知覚している(つまり均等色空間の概念を有する)のではなく、視環境によっては2色覚者と同様な色知覚を行うこと、(3) 半側無視患者の協力を得てサポートツール(部分拡大ツール)を開発する過程で視野周辺の枠の配置に非常に大きな個人差がある可能性が示唆されたこと、などを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響がある程度終息すれば、研究を当初の計画に近づけるように加速させる予定である。具体的には、まず、各種実環境における物理指標や実際の見え方のアノテーションを行いつつHDR画像を取得すると同時に眼球運動測定装置を用いて注視点の状況を取得する。 つぎに、HDR画像から撮影時に使用した環境データ(輝度・照度やカラーチェッカなどの物理指標)を参考にして、各シーン(例えば、晴天時の日向から日向、日陰から日向、曇天、夕焼け、など)の標準的なGTM(トーンカーブ)を作成する。このトーンカーブを用いて、収集したHDR画像からNPVを模したSDR用HDR変換画像を作成する。 最後に、実験室環境下でHDRモニターに表示したHDR画像、SDR用に変換したHDR変換画像に対して、変換カーブの妥当性を検証するための主観評価実験を実施する。また、これを客観的に裏付けるために、眼球運動測定装置を用いて、各画像を観察した際の注視点移動パターンを比較する。一致度が高ければ、何れの画像も実環境と大差ない知覚的忠実性を持って再現されていることが確認できる。この際、比較のためにSDR画像や他方式のHDR変換画像についても同様に評価を行い、その差異についても確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で予定していた実験等を行うことが出来なかったため。予定を変更すると同時に、コロナ禍の終息を待って、予定していた一部実験を行う。
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