近年のSNS等と連動した個人向けスマートフォン・タブレット端末などの普及により、ハイダイナミックレンジ(HDR)環境の屋外においての個人による画像・映像撮影機会が爆発的に増加し、屋外環境においてもモバイルディスプレイが身近に利用されるようになった。このような状況下においては、利用者の個人差と使用環境の多様性を念頭に、従来知られていなかった人間の視覚特性を改めて丹念に解明し、工学に応用する必要がある。 最終年度である本年度は、前任地の鹿児島と現任地の金沢における多数の実験協力者の支援のもとで主観評価実験の実施し、(a) 解析精度の向上と (b) 新しい知見の導出にあたった。 前者 (a) に関しては、人間は、多くの視覚経験を積んだ視環境においては、HDR環境そのものの情報ではなく、原則的にグローバル処理に基づいた一定のルールに則って情報を圧縮し、SDR(標準ダイナミックレンジ)に近い状況で正規化した表象(NVP; Normalized Visual Percept と名付けた)を記憶しているとの仮説をより多くの環境で検証し、NVPの予測精度を向上させた。 後者 (b)に関しては、(1) NVP自体の変動要因が、天候や場所に主体的に依存するものではなく、基本的にサーカディアンリズム(概日周期)によって修飾させている可能性が極めて高いこと発見したこと(なお、この個人差を単純に区分することは困難であり、幼少期から現在に至る生活習慣が累積された結果に基づくと推定されること)、(2) 従来顕著であった午前のみならず、午後にもバリエーションが存在すること、(3) ただし、日中晴天の屋外に限れば,実験に用いた5種類程度のトーンカーブのバリエーションから概ね選択可能であること、などの知見を得た。
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