最終年度は,話速変換を用いる対話において,話し手が,次の発話開始のタイミングを把握するための視覚フィードバック(視覚条件)と聴覚フィードバック(聴覚条件)の特質を比較分析した.分析は「雑談形式」と「説明形式」の2つの対話について,それぞれ視覚条件と聴覚条件での話し手を定量的,定性的に評価した. 雑談形式の場を構築するため,共同想起(joint remembering)による対話を実施した.また,説明形式の場として,千葉大学日本語地図課題対話コーパス1 の地図を用いた.地図課題は,情報提供者が自身の持つ地図に記載された経路を情報追従者に伝え,情報追従者の地図に再現する課題である.実験では参与者Aが情報提供者となり,参与者Bの情報追従者に説明する対話を分析した.分析の結果,「雑談形式」の対話では「視覚条件」において,メーターを用いて後続発話の開始タイミングが話速変換によって生じた待ち時間の終了前後に有意に集中した.その結果,ユーザから「聴覚条件」に比べてタイミングよく話せたと評価された.視覚フィードバックは,発話権が均等な雑談や討論場面への適用が有効であると示唆された.一方,「説明形式」では「聴覚条件」の話し手の後続発話の開始タイミングが「視覚条件」より有意に遅くなった.これは,ユーザからのインタビューから,話し手が聞き手の反応を待ち,共有理解が確認されるまで発話を遅らせる戦略によるものと解釈できた.これは,対話中の相互理解と協調を促進する上で重要と考えられ,診療場面での説明やプレゼンテーションに有効であることが示唆した. 本研究課題の成果の一部は,2024年3月国際会議,NCSP24にてシステム構成部を公表した.また,2024年4月に電子情報通信学会論文誌に分析結果を投稿した.
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