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2020 年度 実施状況報告書

インターネット上の公共財的なシステムにおける秩序の維持に必要な制度に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 20K11959
研究機関青山学院大学

研究代表者

大平 哲史  青山学院大学, 情報メディアセンター, 助教 (60711843)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード罰 / 協力 / 公共財ゲーム / マルチエージェントシステム
研究実績の概要

令和2年度は、WindowsのみならずMacでも動作可能なエージェントベースモデル(以下ABM)に基づくシミュレータを一台で開発できる高性能16インチMacBook Proを購入し、多対多の枠組みである公共財ゲームを使用して、研究代表者が提案したABMを拡張する作業を行った。新型コロナウイルス感染症の拡大という未曽有の状況の中、本務校における業務が激増したため、シミュレータの基本的な機能については実装できたものの、実際に稼働させたところ実行速度の面で期待した性能が得られなかった。そのため、より高速に実行できるような実装方法についての検討を引き続き進めている。一方、本学総合研究所2019年度採択研究ユニットの共同研究プロジェクトにおける研究を通して、格安スマホサービスユーザーの利他的な行動と、利己的な行動双方の履歴を分析し、利他的な行動によって提供された公共財(通信パケット量)と、利己的な行動によって使用された公共財、それぞれに関する分布に潜む規則性を見出した。そして、ユーザーがあるパターンに基づいて利他的・利己的に行動することによって規則的な分布が生み出されること[1]、さらにこの規則的な分布を再現してより大規模なシミュレーションを行ったところ、一定数のユーザーが公共財の提供に参加しなくても、公共財を維持できることが分かった[2]。この結果を踏まえて、今後は格安スマホサービスユーザーの利他的・利己的な行動を公共財供給問題として定式化し、今年度実装したシミュレータのパラメータを調整することによって、公共財の提供への参加率を予測することができないか、検討を進めていきたいと考えている。

[1] 大平哲史,稲葉美里,大林真也,清成透子,第4回計算社会科学ワークショップ,2020.
[2] 大平哲史,稲葉美里,大林真也,清成透子,第69回数理社会学会大会,2020.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題は、先に「研究実績の概要」で述べた通り、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、ABMに基づくシミュレータの基本的な機能については実装できたものの、実行速度の面で期待した性能を得るまでには至っていない。しかしながら、シミュレータの実装と並行して、本学総合研究所2019年度採択研究ユニットの共同研究プロジェクトにおける研究を通して、格安スマホサービスユーザーがどの程度公共財へ提供を行うかという公共財提供の参加率を、実装したシミュレータのパラメータを調整することによって予測するという新たなテーマへと研究を発展させる道筋を得ることができているため、全体として見れば令和2年度の交付申請書に記した当初の計画通りに進展している。
シミュレータの実装状況に関して具体的に述べると、令和2年度の交付申請書に記した公共財ゲームの枠組みと、人間の不平等を嫌う選好に基づくプール罰についてJavaScriptを用いて実装を進めており、参加者数が数百程度のオーダーであれば、科研費研究課題「ソーシャルメディア参加者がハーモニアスに協力するために必要な枠組みに関する研究」においてC言語を用いて構築したシミュレータと遜色ない実行速度であるが、数千のオーダーとなると実行速度の低下が見られている。そのため、特にJavaScriptの描画に関する高速化を試みることで実行速度を改善したいと考えている。並行してまずは数百程度の参加者数で人間の不平等を嫌う選好に基づくプール罰による協力の促進効果について調べ、令和3年度中に数理生物学会やInternational Symposium on Artificial Life and Roboticsで発表し、それらの研究成果をまとめて次年度以降に学術誌へ投稿したいと考えている。

今後の研究の推進方策

令和3年度は、ABMに基づくシミュレータの実行速度を改善すると共に、人間の不平等を嫌う選好に基づくプール罰による協力の促進効果について、数百程度の参加者数で同シミュレータを用いて調べ、複数の国際会議、国内学会において発表するという2本立てで研究を進めていく。具体的には令和2年度の交付申請書に記した通り、研究代表者が提案したピア懲罰の結果と比較しつつ、人間の不平等を嫌う選好に基づくプール罰が、協力的プレイヤー数とプレイヤー全体の平均利得を増加させ、さらには報復行為を抑制できるのかどうかを調べる。この過程で、令和3年度にはデータ保存用に高速外付けSSDを、令和4年度には並列処理で多次元の演算速度を向上させるBlackmagicの外付けGPUを購入し、研究をさらに加速させる。期待する結果が得られた際は、協力的プレイヤー数とプレイヤー全体の平均利得増加および報復行為抑制のメカニズムについても解明し、善意の利用者によって秩序が保たれている公共財的な側面を持つインターネット上のシステムにおける秩序の維持に必要な制度の理解へとつながる知見を得ることを目指す。得られた知見は、社会的に大きな影響力を持つNature Publishing Group発行の論文誌(例:Nature Communications)や、自律エージェントとマルチエージェントシステムに関する著名な論文誌(例:Autonomous Agents and Multi-Agent Systems)で発表するだけでなく、社会的影響力の大きい学会/シンポジウム(例:来場者数が毎年5,000人規模となる慶應義塾大学SFC研究所主催のSFC Open Research Forum)における発表、さらには研究代表者の個人ホームページにおいて広く公開することで社会に還元したい。

次年度使用額が生じた理由

(理由)
1つ目は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、ほとんどの国際会議、国内学会がオンラインでの開催となり、旅費や参加費が発生しなかったことに加え、本務校における業務が激増し、令和2年度の交付申請書の計画を大幅に変更せざるを得なくなったためである。2つ目は、研究代表者が参加すべき国際会議、国内学会について、研究の進捗状況を踏まえてよく吟味して参加したためである。
(使用計画)
以上の理由のため、引き続き新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、国際会議や国内学会が予定通り開催されない、あるいは開催されたとしてもオンライン開催となる可能性があるが、その場合は令和2年度と同じくWeb会議システムを活用し、異分野の研究者と積極的に議論を行いたい。この一年余りの間に、私のみならず他の研究者もWeb会議システムに習熟してきており、たとえWeb会議システムを使用したとしても、令和2年度以上の有意義な議論が行えるものと考えている。そして本研究と関連するテーマを扱う国際会議、国内学会については、研究の進捗状況を踏まえ、引き続きその開催内容を吟味したうえで積極的に参加および発表を行い、異分野の研究者とのネットワーク構築も進めていきたい。

備考

2020年12月:Nature Publishing Groupが発行するオープンアクセスの電子ジャーナルであるScientific Reportsに投稿された論文の査読を担当

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020 その他

すべて 学会発表 (1件) 備考 (2件)

  • [学会発表] 公共財的側面を持つサービスの維持に関する分析2020

    • 著者名/発表者名
      大平哲史,稲葉美里,大林真也,清成透子
    • 学会等名
      第69回数理社会学会大会(JAMS69online)
  • [備考] 研究代表者の個人ホームページ

    • URL

      https://sites.google.com/view/tetsushi77/

  • [備考] 研究代表者の所属研究機関による研究者情報Webページ

    • URL

      https://raweb1.jm.aoyama.ac.jp/aguhp/KgApp?kyoinId=ymddgdgeggy

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公開日: 2021-12-27  

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