研究課題/領域番号 |
20K11959
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
大平 哲史 青山学院大学, 情報メディアセンター, 助教 (60711843)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 知能情報学 / ソフトコンピューティング / 生態学および環境学 / 罰 / 協力 / 公共財ゲーム / マルチエージェントシステム |
研究実績の概要 |
令和3年度は、新型コロナウイルス感染症の再拡大という状況の中、本務校における業務は引き続き大きな負担となったが、個人の合理的な選択が社会としての最適な選択に一致しない、社会的ジレンマをモデル化した公共財ゲームを使用し、JavaScriptにより構築したシミュレータの実行速度の改善を進めた。まず、JavaScriptでGPUを簡単に扱えるライブラリ「GPU.js」を用いて、並列処理で多次元の演算を行うことで実行速度の改善を試みた。しかしながら、本研究において必要な計算の精度が得られず、また実行速度についてもほとんど改善が見られなかった。そのため、アニメーションのフレームレートを落とし、計算負荷を下げることによって実行速度の改善を試みた。結果的にはこちらの手法が好成績を収め、参加者数が1,000程度であれば、C言語により新たに構築したシミュレータと遜色ない実行速度が得られることが分かった。加えてこのC言語によるシミュレータも完成したことにより、今後さらに参加者数を増加させた場合についても、シミュレーションを実行できる目処が立った。この実行速度を改善したJavaScriptによるシミュレータを使用して実験を進め、研究代表者が新たに提案した利得の差に比例した確率的プール罰により、公共財ゲームにおいて、既存研究で提案された罰と比較して、より裏切り者の侵入に対して頑健な集団ができ、しかも平均利得の面でも従来の罰と比較して遜色がないという結果が得られた。この結果について、2021年度日本数理生物学会年会およびThe 27th International Symposium on Artificial Life and Roboticsにおいて発表し、さらに論文としてまとめて投稿し、令和4年4月にScientific ReportsにAcceptされ出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先に「研究実績の概要」で述べた通り、本研究課題は新型コロナウイルス感染症再拡大の影響を受けたものの、令和2年度で課題となっていた、公共財ゲームを使用しJavaScriptにより構築したシミュレータの実行速度を改善することができただけでなく、新たにC言語によるシミュレータを構築することができた。これによって、より高速な実行速度が求められる場合はC言語版、一方で実行速度の面では劣るもののWeb上で誰もが幅広く本研究のシミュレーションを実行できるJavaScript版と、2種類のシミュレータを使い分けることができる環境が整い、令和4年度以降の研究をさらに加速させる道筋を得ているため、全体としてみれば令和2年度の交付申請書に記した当初の計画通りに進展している。さらに「研究実績の概要」で述べた、令和4年4月にScientific Reportsにて出版された研究成果だけでなく、研究代表者が新たに提案した利得の差に比例した確率的プール罰が、いわゆる2次のフリーライダーと呼ばれる、公共財への投資には貢献するが他者は罰しないという者に対する罰を考慮した場合や、自分とは異なる戦略を採用する者すべてに罰を与える場合においても、既存研究で提案された罰と比較して優位であるかどうかという点についてもすでにデータを集めており、その結果について順次関連する学会において発表を行い、論文としてまとめていく予定である。さらに本学総合研究所2019年度採択研究ユニットの共同研究プロジェクトにおける研究を通して、格安スマホサービスユーザーの利他的・利己的な行動を公共財供給問題として定式化し、今年度構築したシミュレータのパラメータを調整することによって、公共財の提供への参加率を予測できないか、検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、「現在までの進捗状況」で述べた通り、研究代表者が新たに提案した利得の差に比例した確率的プール罰が、公共財への投資には貢献するが他者は罰しないという者に対する罰を考慮した場合や、自分とは異なる戦略を採用する者すべてに罰を与える場合においても、既存研究で提案された罰と比較して優位であるかどうかという点について調べるだけでなく、そもそもより協力が困難な状況であっても、同じように既存研究で提案された罰と比較して優位なのかという点についても調べ、複数の国際会議、国内学会において発表し、その結果を積極的に論文としてまとめていく。期待する結果が得られた際は、協力者数と集団の平均利得増加、および非協力者による協力者への罰という非社会的な罰の抑制メカニズムについても解明し、格安スマホサービス利用者による公共財的な側面を持つインターネット上のシステムにおける秩序の維持に必要な制度の理解へとつながる知見を得ることを目指す。得られた知見は、社会的に大きな影響力を持つNature Portfolio(Nature Publishing Group)発行の論文誌で発表するだけでなく、Scientific Reportsに発表済みの論文において、出版社が用意しているWebサイト上でのコメント機能を活用し、研究の成果をより広く周知させることで社会に還元したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新型コロナウイルス感染症再拡大の影響により、研究代表者が参加すべき国際会議、国内学会について、研究の進捗状況を踏まえてよく吟味して参加してきたためである。また、JavaScriptにより構築したシミュレータの実行速度の改善を進める中で、当初の研究実施計画になかった、C言語によるシミュレータの構築を並行して進め、要求される実行速度や実行環境に応じて2種類のシミュレータを使い分けることができる環境を整えたためである。 (使用計画) 以上の理由のため、本研究と関連するテーマを扱う国際会議、国内学会については、研究の進捗状況を踏まえ、引き続きその開催内容を吟味したうえで積極的に参加および研究成果の発表を行い、異分野の研究者とのネットワーク構築をさらに進めていきたい。一方で新型コロナウイルス感染症再拡大の影響により、国際会議や国内学会が予定通り開催されない可能性も引き続きあるが、その場合はオンラインで異分野の研究者と議論を行いたい。
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