本研究は、嗅周皮質―嗅内皮質―海馬モデルと前頭前野モデルを組み合わせたスパイキングニューラルネットワーク(SNN)を移動ロボットの頭脳として活用する仕組みを提案することが目的である。そのなかで、嗅周皮質SNNにおけるobject recency様タスク、嗅内皮質―海馬SNNにおける自己組織的な格子細胞の形成、および嗅内皮質―海馬SNNによる近道リプレイを学習する計算機シミュレーションを行った。 嗅周皮質SNNを作成し、familiarity discrimination(FD)、およびobject recency課題を模した課題を実施した。FD様課題では、オブジェクトを模した手書き画像を繰り返し提示した後で、新規手書き文字画像を提示すると、より高い応答性になることを確認した。また、object recency様課題では、訓練期間に2つの画像を順に入力し、テスト期間では先に入力した画像に対しより高い発火周波数を示す結果を得た。 嗅内皮質SNNにおいては、発火率で表現された人工ニューラルネットワーク(ANN)をSNNに変換することで、効率的に格子細胞と場所細胞の表現のできるSNNを作成した。従来は格子細胞を作成する際、手動で結線していたがが、回路規模が大きくなることが問題であった。頭方位と速さを入力とし、場所細胞の発火受容野を出力となるように誤差逆伝搬によりANNを訓練することで、小規模のニューロン数で格子細胞を実現できる。これを適切にスパイキングニューロンに変換することでSNNによる格子細胞を形成した。 海馬SNNでは、8字の交替迷路課題において、シナプス結合荷重の分布を考慮し、報酬に基づくドーパミン依存非対称型STDP関数を用いた学習をすることで、順方向リプレイと逆方向リプレイに加え、報酬地点への近道を示すリプレイを示すことを確認した。また、リプレイ頻度は報酬量に依存した。
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