研究課題/領域番号 |
20K11987
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺前 順之介 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (50384722)
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研究分担者 |
松尾 直毅 九州大学, 理学研究院, 教授 (10508956)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脳 / シナプス / 確率 / 海馬 / 記憶 |
研究実績の概要 |
まず、海馬の記憶痕跡細胞に関するデータ解析を実施した。記憶獲得時および記憶消去時と想定される期間での海馬CA2から記録されたカルシウムイメージングデータおよび、cFos活性に応じたチャネルロドプシンの発現による記憶痕跡細胞の指標データをもとに解析を実施した。本年度は特に、機械学習手法の一つであるRandom ForestとConfident Learningを利用することで、記憶獲得後に最初に記憶獲得時と同様の環境に導入された際に、記憶痕跡細胞と推定される細胞群の活性が増大し、それが記憶痕跡細胞とその他の細胞の差を生み出す要因になっている可能性を見出した。 また、脳内でニューロンおよびシナプスの両方が確率的な挙動を持続していることを参考に、シナプスとニューロンの両方のダイナミクスが確率的なボルツマンマシン(シナプスボルツマンマシンと呼称)を提案し、その性能を理論的に解析した。特に、レプリカ法を用いてこのモデルのスピングラス相転移点の導出に成功し、このモデルと通常の制限ボルツマンマシンでは、スピングラス相の大きさに顕著な差がでることを明らかにした。またteacher-studentシナリオを利用した学習性能の検討も行い、制限ボルツマンマシンとは異なり、本モデルではスピングラス相が消失する状態でも学習が可能になる可能性を見出した。 さらに、ニューロンとシナプス両方の確率性を利用する学習アルゴリズムについて、脳内の神経細胞は興奮性抑制性が細胞毎に異なるというDale則の導入など、様々な拡張が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
確率性を利用する学習アルゴリズムの多様な拡張については、本アルゴリズムが極めて頑健であることが確認にできており特に順調に研究が進捗していると言える。またシナプスの確率性を導入したボルツマンマシンについても、理論解析が順調に進んでおり、既存の制限ボルツマンマシンとは異なる傾向が見いだせており順調に進捗している。海馬記憶痕跡細胞のデータ解析についても順調に進んでいるが、一方でデータの時間構造を十分取り込めているとは言い切れず、さらなる解析が必要になると考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
まず海馬記憶痕跡細胞のデータ解析については、データの持つ時間的構造を取り入れた解析を実施する。具体的には状態空間モデルに基づくベイズ推定によって、同期傾向を持つニューロン集団を同定する手法を用いることを検討している。 次にシナプスボルツマンマシンについては、種々の温度アンサンブルを利用する交換モンテカルロ法を適用した数値解析を実施する予定である。 さらにニューロンとシナプスの確率性に基づく学習アルゴリズムについては、リカレントネットワークの学習を通じて、時系列のオンライン学習とシナプス構造の関係に着目して研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により予定していた国内外の出張のほとんどが実施できなかったため、また世界的な半導体供給不足により購入を検討していた計算機資源の納入時期が大幅に遅延する可能性があったため。
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