近年のバイオメカニクス研究から、動物の運動は神経系による制御に加えて、体そのものの形や材料としての性質によって大きく影響されることがわかってきた。ムカデは、柔らかい体と多数の肢をもつ土壌生物で、体軸と肢の協調運動により不整地や土壌中を俊敏に移動することが知られている。申請者らは、日本に広く生息するセスジアカムカデがこれまで知られたいたオオムカデ目のものとは異なる歩容遷移パタンを持つことを発見した。系統学的に近い2種間で神経系の大幅な違いはないと仮定すると、歩容遷移パタンが生じる要因は主に体の剛性や形態にある可能性が示唆される。本研究では、このムカデを含むオオムカデ目の2種(他方はトビズムカデ)を対象に、体軸の剛性(粘弾性)を計測・解析し,その結果と各パーツの形状データを元に移動運動を再現する力学的数理モデルを作成することによって,柔らかな体と多足移動とを結びつける生物の設計原理を探索することを目指した。 最終年度に実施した研究成果は以下の2点である。(1) オオムカデ目2種について、胴体の曲げ粘弾性計測の追加および解析を前年度に引き続き行ない、2種において特に速い曲げ速度について定性的に大きく異なる特性(具体的には、一方の種は曲げ開始時に硬く曲がり難い特性を持ち、他方はそうではない)を持つことを明らかにした。直感的には、この特性の違いは2種における歩容遷移パタンの違いの大きな要因であることを期待させるものである。(2)ムカデ力学モデルの2次元プロトタイプの作成を前年度に引き続き行ない、陸上の這行モデルおよび遊泳モデルを作成した。ただし、計測により得られた粘弾性特性や体形状と歩容の関係を検証するための力学的数理モデルを期間内に完成させるには至らなかった。これについては今後も研究を続け、結果をまとめたい。
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