研究課題/領域番号 |
20K12004
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
篠崎 隆志 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター, 主任研究員 (10442972)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 計算論的神経科学 / 神経回路 / シミュレーション / 神経科学 |
研究実績の概要 |
生体の脳のような高いエネルギー効率をもつ情報処理システムの実現を目標に、脳の高効率性の要因の一つであると考えられる、情報のゲーティングを明らかにするために、神経集団における集団発火の伝播のシミュレーションおよびにその解析を行った。前年度までに進めてきたFokker-Planck方程式による定式化を用いて、Synfire Chainと呼ばれる神経細胞集団中での同期発火の伝播モデルにおいて、一般に用いられている線形なLeaky Integrate-and-Fire (LIF) モデルと、Naイオン電流の項を持つ非線形なExponential Integrate-and-Fire (EIF) モデルの比較を行った。その結果、自発発火を起こし、Naイオン電流が活性化されるような条件下では、EIFモデルの膜電位分布が広がり、非同期な状態となることが示された。この非同期状態は、自発発火の存在に強く依存するため、微弱な抑制性入力による弱い過分極によって容易に消滅する。このことは、微弱な抑制性入力によって神経集団の膜電位の同期状態が制御可能であり、集団発火の伝播のゲーティングが可能となることを示唆している。これらの研究結果は2021年の北米神経科学会の年大会において発表された。本研究をさらに推進することによって、環境ノイズをうまく利用しつつ脳のように高いエネルギー効率での情報処理を可能とするシステムや、脳における注意のメカニズムなどの新しい知見が得られることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度では、前年度までに行ったFokker-Planck方程式による定式化、およびに開発された数値解析プログラムを用いて数値シミュレーションを行った。シミュレーションの結果、および定式化されたIzhikevichニューロンモデルのFokker-Planck方程式から、生理的に妥当で非線形なExponential Integrate-and-Fire (EIF) モデルにおいて、自発発火状態がNaイオン電流を活性化し、非同期状態を引き起こすメカニズムを明らかにすることに成功した。一方で、Fokker-Planck方程式による数値解析の妥当性を検証するための、通常の膜電位モデルを用いた結果との照合については遅れており、こちらについての拡充が必要とされる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果として得られた、北米神経科学会の年大会にて発表した内容は、未だ限られたパラメータのものであることから、より広範なパラメータ空間でのダイナミクスの検証を行い、本現象の総合的な理解を実現する。また、遅れている通常の膜電位モデルを用いた結果との照合を行い、妥当性を確認するとともに、パラメータ等の検証も行う。開発された数値解析基盤を構成するプログラムは、本研究のみならず、一般的なスパイキングニューロンの研究全般に有益なものである。そこで本研究計画では、これをGPU対応させ、より大規模な神経集団のシミュレーションが可能なものとした上で、オープンソースとして公開し、関連領域の活性化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続きコロナウイルス感染症に係る影響で、学会発表のための出張が不可能となり、結果として旅費についての次年度使用額が生じた。また同様にコロナウイルス感染症に関して、勤務地における出勤制限が設けられ、原則在宅勤務となったため、予定していた高性能計算機の調達および設置を行うことが出来ず、物品費についても次年度使用額が生じた。コロナウイルス感染症に関連した制限は徐々に解消しつつあることから、次年度以降は年度の早い段階で、先送りしていた高性能計算機の調達を行い、研究を推進すると共に、その結果を国際会議等で発表してゆく予定である。
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