研究最終年度にあたる令和4年度も,コロナ禍の影響で海外での実験を実施するには至らず,国内拠点での新規実験方法の検討・実証,および実験の簡略化を目指した,色覚特性の個人差を簡便に評価するための手法についても,令和3年度に実施した研究をさらに発展させ条件を増やした結果,予備実験で示された有意性に関しては統計的に確認することができなかった.等色実験の新規実験方法については,色彩に関する知識がないナイーブな被験者においても,容易かつある程度の精度で等色実験ができるような手法を検討し,あらかじめ等色点となりうる候補色群を用意し,それらの候補色の中から最適な等色を見つける方法を提案した.その優位性は初めて等色実験を行う被験者においても所要時間が1/3程度に減少しつつ,繰り返し精度も従来法と同等であることを示した.この成果は10月にアメリカで開催された国際学会において発表し,参加者からは非常に高評価を得た.しかしながら,候補色として提示しうる色数が限定されていることから,等色関数として離散的な値しか取れないこと,最適な色を選択する際に色記憶を要する等の問題点に関しても検討を行い,改善方法の提案並びにその有用性についての実証も行った. 研究期間全体を通じての成果として,当初の目標である人種間の色覚多様性の測定・およびその機序の解明までを行うことは,研究期間全体にわたるコロナ禍や社会的行動制限により実現することはできなかったが,その測定に関する簡便な手法の検討や等色関数の個人差を生み出している要因の検討を日本人被験者において実施することはできたので,究極の目的の実現に向けた素地はできた.
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