研究課題/領域番号 |
20K12021
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
地本 宗平 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (80324185)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大脳皮質聴覚野 / 覚醒動物 / 単一ニューロン記録 / 音圧振幅変化 |
研究実績の概要 |
外部環境にある音情報を知覚して音声や音源を識別認知することはヒトや動物にとって必要不可欠な生理機能である。本研究の目的は、大脳聴覚野の単一神経細胞が自然音知覚のためにどのような音響情報を処理しているかを明らかにすることである。自然な音響環境下において、音圧の急激な、あるいはゆっくりとした上昇または下降が生じることにより、音は様々な振幅変化を伴った時間包絡をもつ。これまでの研究において、スペクトル情報は同じであるが、時間と共に刺激音圧が指数関数的に減少する振幅変化音(damp音)とそれを時間軸上で反転させた振幅変化音(ramp音)に対する一次聴覚野(A1)の反応特性を調べ、音包絡の急な立ち上がりや減衰など、時間的な境界に感受性を示しedge細胞と、ゆっくりとした立ち上がりや減衰に感受性を示すslope細胞の二種類のニューロン群が存在することを明らかにしている。しかし、一次聴覚野以外の聴覚野ではこのような音圧振幅変化音に対してどのような応答パターンを示すのかについては不明である。本年度は音識別に重要な音圧の振幅変化に対する応答を覚醒動物の前聴覚野(AAF)、後部聴覚野(PAF)および二次聴覚野(A2)から記録し、その応答パターンと特性を解析し、聴覚領域ごとの機能を推定した。ほとんどのAAF細胞は急激な音圧変化に選択性を示しedge細胞に分類され、残りの細胞はゆっくりとした音圧変化に同調した。これら細胞タイプの分布はA1における分布と異なっており、AAFでは急峻な音圧変化に選択性を示す細胞の割合が高いことが明らかになった。一方PAFとA2細胞の約半数が音圧変化の速度に選択性を示す細胞タイプに、約4割が音圧変化の方向に選択性を示す細胞タイプに分類された。細胞の記録部位の分布を調べた結果、方向選択性細胞の多くがA2に分布することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
聴覚野細胞の内、前聴覚野(AAF)、後部聴覚野(PAF)、二次聴覚野(A2)について振幅変化音に対する応答特性を計測した。AAFの細胞はdamp音のオンセットおよびramp音のオフセットに一過性に反応し、音圧の急激な変化が生じる時間的な境界に感受性を示した。またAAF のedge細胞の中にはA1と同様に両音のオンセットとオフセットの両方、または両音のオンセットのみに一過性に反応するパターンを示す細胞も存在した。また少数ではあるがAAFにも音圧のゆっくりとした立ち上がりや減衰する期間に持続的に反応するslope細胞が存在することを発見した。PAFとA2では、A1とAAFで記録された速度感受性細胞以外に、damp、ramp音刺激のそれぞれ緩やかな音圧下降と急激な音圧下降とrectangular音刺激の急激な音圧下降に選択的に反応し、音圧下降に同調するdownward-slopeタイプとdamp、ramp音刺激のそれぞれ急激な音圧上昇と緩やかな音圧上昇とrectangular音刺激の急激な音圧上昇に反応し音圧上昇に選択的に同調するupward-slopeタイプの二種類の方向選択性細胞が応答する細胞が全体の4割近く存在することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、音圧の振幅情報とともに音刺激のスペクトル情報を系統的に変化させた時の、各聴覚野(A1、AAF、PAF、A2)の振幅変化音応答細胞のスパイク応答特性を解析し、その音響パラメータ(周波数応答特性、音圧変化速度、刺激期間)特異性を明らかにする予定である。これらの解析により、聴覚野内における領域特異的な音響パラメータの処理機構が明らかになると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存の設備備品からの更新を予定していたが、進行中の実験を中断してセットアップを行う必要があるため、新規備品の購入を次年度以降に繰り越すこととした。 解析用コンピュータと解析データ保存用サーバの購入および音声出力・解析プログラムについて更新を予定している。
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