研究課題/領域番号 |
20K12022
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
鯉田 孝和 豊橋技術科学大学, エレクトロニクス先端融合研究所, 准教授 (10455222)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視覚 / 色覚 / 錯視 / 色収差 / 眼光学 / 心理物理学 / 知覚 |
研究実績の概要 |
採択された論文の一つでは(Kanematsu and Koida, 2020, Sci rep)、錯視の発生機構を調査した。当該錯視の特徴は灰色の細い線を白くフチ取ることで周辺からの色対比効果が著しく強調されることにある。色の見えをマッチング実験により定量化することで色対比の成立条件ならびに効果的な条件を探索した。その結果、灰色線の輝度を変えた場合の色対比への影響は、縁取りの有無に大きく依存した。白く縁取ると灰色線の輝度によらず色対比が生じ、特に暗い輝度で色変化が顕著であった。一方で縁取りを無くすと、灰色線の輝度は背景色の輝度に近いほど対比効果が強かった。前者の白く縁取った錯視条件は、色恒常性で知られるヘルソンジャッド効果と似た特性であるのに対して、後者の縁取りが無い条件はキルシュマンの第三法則と呼ばれる効果と一致していた。両者は一見矛盾しており、色恒常性の理解を阻んでいたが、本錯視を通じてわずかな縁取りが決定的な影響を持つことをがその起源であることを突き止めた。 錯視の効果が明らかとなった一方で、本刺激に特徴的である細かい刺激では、眼光学系に由来する散乱や色収差によっても光の波長構成が変わり、その結果色の見えに影響が生じたかもしれない。そこで散乱や色収差を理論で予測するとともに、実際の光学系とカメラを用いて錯視画像がどのように変化しうるかを物理的に計測した。また、固視点を奥行き方向に移動させることで色収差が生じやすい状況を作り出し、被験者に錯視画像を観察させた。以上の実験の結果、色収差による効果を加味したうえでも錯視による色変化が強いことを実証した。これは錯視が光学効果ではなく神経メカニズムに由来することを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文の査読過程で指摘された光学的要因を徹底的に調査することで、論文採択に至った。光学的要因の調査は、画像表示への工学的応用を考えた際にも重要である。なぜなら光学的要因の測定方法と、神経的な作用とを量的に比較するための手法が洗練され、今後の実験や開発現場においても同様の手法を応用することで光学的要因と神経的作用とを比較することが容易となったからである。以上の進展から、研究は順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の錯視が生じる最適な線の細かさを定量的に調査する実験を完了させ、論文掲載を目指す。類似した既存の研究では不思議なことに、色対比の強化はS錐体方向の色相のみで生じると報告されていた。一方で本研究では、LM錐体方向の色相でも生じるという点で新しい。さらにLM錐体方向の色ではS錐体方向の色と比べて色対比が最も強まる線幅が明らかに細いことも見えてきた。これを定量的に比較するために線幅をパラメトリックに変え、色対比を測定し、比較する実験を行う。核となる実験データはおおよそそろっているが、光学シミュレーションによる予想と実測との比較を進めることで、神経で生じている錯視の計算機構について明らかにする。
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