研究課題/領域番号 |
20K12026
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中本 裕之 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (30470256)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 食感計測 / 多感覚情報処理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、時間とともに変化する複数の感覚を統合し知覚の動態を表現する数理的手法を確立することである。特に咀嚼時の歯の力触覚の感覚である食感を対象としている。視覚や聴覚に比較して力触覚のセンサ化並びに定量化は確立しておらず、食感に関しても我々が日々の食事の際の身近な感覚であり、おいしさに直結する重要な感覚であるにもかかわらず既存の定量化手法が不十分である。また、咀嚼動作は食物を破断し食塊を形成するプロセスとなるが、この間の食感の変化を表現する数理的手法も明らかでない。これら課題の解決のため、令和2年度では、次の3つのサブテーマに分けて研究を推進した。 サブテーマa)「食感センサの製作と計測システムの構築」においては、従来柔軟なエラストマを用いて構成していた食感センサを再設計し、バネとスライド機構を用いた磁気式食感センサを開発した。バネを使うことで繰り返しの耐久性を高め、スライド機構を用いることで高精度の計測が可能であることを検証した。サブテーマb)「多感覚統合モデルによる食感強度推定」では、重回帰並びにガウス過程回帰を用いた食感推定を行い、食感センサから得られた力と振動の力触覚感覚の融合を行った。重回帰では正則化項を組み込むことでスパースなモデルが得られることを確認した。サブテーマc)「支配的食感決定モデルと食感の動態の解析」においては、自己回帰モデルを用いて基本的な食感の動態を表現できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では3つのサブテーマを並行に推進し、最終年度においてそれらを集約し時間とともに変化する複数の感覚を統合し知覚の動態を表現する数理的手法を確立する計画である。この計画において令和2年度では、サブテーマa)の「食感センサの製作と計測システムの構築」に関して、従来エラストマを構成要素として食感センサを再設計し、新たにバネとスライド機構を用いた食感センサを製作した。このセンサは従来のものに比較して特に耐久性に優れたものとなっており、残り期間における繰り返しの使用にも耐えうる仕様が実現できた。また、咀嚼音の計測についてもシステム化を行っており、その有効性は令和3年度に検証する計画である。次にサブテーマb)「多感覚統合モデルによる食感強度推定」では食感評価の前段となる瞬間的な食感の推定方法を2つの方法で確認した。これらの方法では、食感センサによって計測したデータから特徴量を算出し、その特徴量を融合することによって食感を推定している。このサブテーマは食感センサが完成してから多くのデータを計測することによって本格的に進めることができ、令和3年度も継続して実施する。サブテーマc)「支配的食感決定モデルと食感の動態の解析」では自己回帰モデルの基本的な検証となったが、サブテーマb)におけるモデルの出力を入力とするモデルであるため、令和3年度から本格的な推進となる。これらの研究の進捗から、研究計画で挙げた3つのサブテーマ及び研究全体が順調に進んでいると判断し、区分として「(2)おおむね順調に進展している。」を選定した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では先の「現在までの進捗状況」で述べたように、計画で挙げた3つのサブテーマのそれぞれにおいて計画通りの進捗と結果が得られている。したがって3年間の計画の中間年度となる令和3年度においては、特に1つの目のサブテーマa)「食感センサの製作と計測システムの構築」の実現によって得られた計測データをサブテーマb)とc)に入力していく流れとなる。サブテーマb)「多感覚統合モデルによる食感強度推定」では、特にガウス過程回帰の特徴の1つである信頼区間をもつ推定値に着目し、官能評価値のもつばらつきを表現するための方法について研究を推進する。また研究計画には挙げていなかった他の回帰モデルを用いることにも挑戦する。サブテーマc)「支配的食感決定モデルと食感の動態の解析」では、自己回帰モデルを多次元に拡張したモデルを用いることにより、食感の複雑な動態を表現することを目指す。この拡張モデルにもいくつかの候補があり、時間の許す限り試行を進め最適なモデルの選定を行う。また、動態を解析するためには従来の計測方法から大きな転換が必要である。そのため、特に時間方向に長く変化を確認できる計測方法を併せて提案し、従来にない特徴を捉えることの可能なデータの取得と解析も実施する。このように3年間の中間年度となる令和3年度においては、いくつかの挑戦的な試行に取り組むことにより、最終年度の研究へとつなげ、研究成果の充実を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に執行予定であった特に海外での調査並びに発表を予定していた旅費がコロナ感染対策の移動の制限によって執行できなかったため、その大部分が令和3年度に繰り越しとなった。現在論文を2本投稿中であり、採択が決まり次第その掲載料として計上する予定である。
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