本研究では時間とともに変化する複数の感覚を統合し知覚の動態を表現する数理的手法を確立することを目的とする。特に咀嚼時の歯の力触覚の感覚である食感を対象とする。視覚や聴覚に比較して力触覚のセンサ化並びに定量化は確立しておらず、食感に関しても日々の食事の際の身近な感覚であり、おいしさに直結する重要な感覚であるにもかかわらずその定量化手法が不十分である。また、咀嚼動作は食物を破断し食塊を形成するプロセスとなるが、この間の食感の変化を表現する数理的手法も明らかでない。これら課題の解決のため、令和4年度では次の3つのサブテーマに分けて研究を推進した。 サブテーマa)「食感センサの製作と計測システムの構築」においては、令和2年度に設計製作した独自の磁気式食感センサを用いて、磁気式食感センサの計測データと3軸の力覚センサによる計測データとの比較を行なった。磁気式食感センサではパンなどの柔らかい食品においても計測が有効である一方、力覚センサでは力の分解能が不十分でありSN比の低い計測データとなることを確認した。サブテーマb)「多感覚統合モデルによる食感強度推定」では、ガウス過程回帰を用いた食感推定を行い、食感センサから得られた力と振動の力触覚と気導音である聴覚との融合を行った。令和4年度では力触覚のみ,気導音のみなどの感覚の構成の違いによる官能評価値を得た上で、同じ回帰モデルが感覚の構成条件の異なる官能評価値を推定できることを確認した。サブテーマc)「支配的食感決定モデルと食感の動態の解析」においては、複数回の咀嚼動作を行える計測システムを構築し、10回分の圧縮時の計測データを自己回帰モデルに用いることで複数の食感の動態を予測できることを確認した。以上のことから、食感における複数の感覚統合と知覚の動態を表現する数理的手法を確立した。
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