研究課題/領域番号 |
20K12039
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
牧 勝弘 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 教授 (50447033)
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研究分担者 |
饗庭 絵里子 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (40569761)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 空間放射特性 / 音色 / 呼吸球 / ヴァイオリン / 多面体スピーカ |
研究実績の概要 |
オールドバイオリンの音色を特徴づける音響要因を解明するために、バイオリン「ストラディバリウス」の音響空間放射特性を42チャンネル球形スピーカにより疑似的に再現し、その音に対する心理評価を空間印象、美的印象、および迫力印象を含む複数の音色表現語に関して行った。再生条件として、「ストラディバリウス」の放射パターンとその時間変化を有するオリジナル条件(42ch音源使用)、「呼吸球」的に音を再生しこれらを有しない条件(1ch音源使用)、および球形スピーカを使用するものの正面にしか音を放射しない条件を設けた。また、参考としてプロ仕様のモノラルモニター用スピーカと、ホームシアター用のステレオスピーカとの比較も行った。その結果、全ての音色表現語について、オリジナル条件と呼吸球条件は、突出して他の再生条件よりも高い評価となった。また、オリジナル条件と呼吸球条件の比較では、迫力印象を除く音色表現語において、オリジナル条件の方が高い評価を得た。これらの結果は、空間全体に音を放射することの重要性と、ストラディバリウスの放射パターンとその時間変化が迫力を除く音色の印象に貢献していることを示している。 オールドバイオリンの演奏法を解明するために、プロバイオリニストが演奏した場合の空間放射特性と同様な放射特性を作り出す加振機の設置、および設定条件を明らかにした。この際、奏者の頭部や体の影響を加味するために、マネキンにバイオリンを保持させて音響計測を行った。その結果、魂柱が下部にないG線側の駒の上部を加振することがプロ奏者の演奏を再現する上で重要であることが分かった。 オールドバイオリンの板厚調整法を解明するために、人の指のタップに近く、かつ人の要因を排除して安定的にバイオリン板をタップすることができるゴムマレットを用いる装置の基本設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、木材の劣化に伴い将来消失することが避けられないオールドバイオリンについて、「音色:オールドバイオリンの音色を特徴づける音響要因の解明」、「製法:オールドバイオリンの板厚調整法の解明」、および「奏法:オールドバイオリンの演奏法の解明」の3つを実現し、オールドバイオリンに関する有形・無形の文化財の継承を学術的な立場で行い、さらにバイオリン製作およびバイオリンの奏法教育への社会的な貢献を行うことを目的としている。 オールドバイオリンの音色を特徴づける音響要因の解明は順調に進展している。2020年度は、ストラディバリウスに固有の空間放射特性がその音色に寄与していることを実証するための基礎実験を完了することができた。 オールドバイオリンの演奏法の解明はおおむね順調に進展している。プロのバイオリン奏者と同様の空間放射特性を作り出せる加振機の設置・設定条件を明らかにすることができ、かつ、加振機の高度化も行うことができた。ただし、2020年度は反射・反響のない条件、つまり無響室での計測が新型コロナ感染症の影響でできなかったため、その点は2021年度に改めて実施する必要がある。 オールドバイオリンの板厚調整法の解明はおおむね順調に進展している。指によるタップを代替可能なタップ装置の基本設計を完了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
オールドバイオリンの音色を特徴づける音響要因の解明として、研究計画に従い、個別の音響要因の貢献度の解明やバイオリンの製作年代間の比較を心理的評価で行う。また、オールドバイオリンの演奏法の解明として、加振機を取り付けたバイオリンの放射特性の計測を無響室で実施すると共に、加振機のパラメタ値と空間放射特性の関係を明らかにする。さらに、オールドバイオリンの板厚調整法の解明として、早急に基本設計に基づいて実機を完成させ、通常バイオリンの板厚とタップ音との関係を詳細に調べる。また、データを取得しやすいコンテポラリバイオリンでタップ音のデータを取得し、既に取得済みの指でタップした場合のデータとの比較も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響により国内外での研究発表、および実験施設(電気通信大学の無響室)での音響計測実験を行うことができなかったため次年度の使用額が生じてしまった。次年度は、出張による研究発表や実験施設での音響計測実験を行う予定であるが、次年度もそれが難しい場合は、オールドバイオリンの板厚調整法の解明に重点を置き、サンプルを収集するためのバイオリンの購入数を増やす予定である。
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