研究課題/領域番号 |
20K12044
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
武本 麻美 岡山大学, 大学病院, 助教 (80309567)
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研究分担者 |
阿部 匡伸 岡山大学, ヘルスシステム統合科学学域, 教授 (70595470)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インソール型の圧力センサ / パーキンソン病 / Hoehn-Yahrの分類 |
研究実績の概要 |
本研究では,定量的なパーキンソン病の重症度推定のため,インソール型圧力センサを用いてパーキンソン病の歩行障害から重症度を推定する方式の開発を目指した.まず,インソール型圧力センサで足裏にかかる力の時系列データを計測する.次に,歩行データを用いて歩行者の平均的な一歩を歩行パターンとして作成し,歩行パターンから重症度ごとの歩行データの特徴を捉え,有効な特徴量を検討する.歩行データから抽出した特徴量を用いてクラスタリングをおこない,クラスタに最も多く含まれる重症度をクラスタの重症度として設定する.最後に,未知の特徴量に最も類似したクラスタを最近傍法により参照し,クラスタに割り当てた重症度を用いて重症度を推定する. 歩行データは,同意を得た実験参加者にインソール型圧力センサを装着した靴を履かせ,約10秒間平坦な直線を普段通りに歩いてもらい計測し, 歩行データからオーバーラップ時間,左右の足のオーバーラップ時間の差,ばらつき度の3種類の特徴量抽出をおこなった.歩行データとして取得し,特徴量抽出したデータは Yahr2の患者3名,Yahr3の実験参加者10名,高齢健常者9名である.これらのデータを学習データとテストデータに分割し,重症度の推定を実施した.結果として、高齢健常者と Yahr3患者に関しては高い推定精度を得た.また,多次元尺度法によりクラスタの特徴量を2次元で示すと,高齢健常者は比較的近い距離に集まって存在している一方で,Yahr3では遠い距離に点在しており,病気の進行具合や個人の症状の出現具合により特徴が複数あることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インソールセンサを用いて高齢健常者9名, Yahr2患者3名, Yahr3患者10名の歩行データを得ることが出来た。学習データを k-means 法によりクラスタリングして比較検討した結果, 高齢健常者と Yahr3について高い精度で重症度の推定が可能であった.これはYahr3の実験参加者がすり足や筋力低下といった症状をはっきりと出現しており, それらをオーバーラップ時間をはじめとする特徴量で取得可能であったからだと考えられる.以上のように, データを順調に解析, 評価できている。
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今後の研究の推進方策 |
インソール型圧力センサは,パーキンソン病重症度推定に用いられていた従来の大きな装置とは異なり,小型でワイヤレスなため,いつでもどこでも簡単に計測可能である.さらに,これまで体全体や足全体であった計測対象を,足裏のかかとや指先といった,より詳細な部位で計測が可能になるというメリットがある.高齢健常者に比べてパーキンソン病 Yahr3の歩行パターンでは,かかとの力のかかり方が一定ではなかったり,指先の付近もかかとと一緒に接地していたりしていることが示された.これは,足の筋力の衰えやすり足といったパーキンソン病の歩行障害の症状を示していると考えられる. パーキンソン病重症度推定では,高齢健常者と Yahr3の recall がそれぞれ 0.83 と 1.00 を示した.歩行データとして,実験参加者が22名と少数であり,データの偏りによって個人の特性に依存する可能性があった.そこで,学習データを一度クラスタリングし重症度ごとのクラスタを形成することで,重症度ごとの平均的な特徴を捉える手法を検討した.これにより,個人の歩行の特徴に依存することなく,重症度による症状の違いを捉えることができ,高い recall を得ることができたと考えられる. 今後の課題として,Yahr2のデータ数を増やし,高齢健常者との分類が可能になるか確認する必要がある.また,パーキンソン病患者でほとんど症状のない方が高齢健常者となってしまうことを避けることができる特徴量の検討や,機械学習法の検討があげられる. また,本研究の応用として,パーキンソン病患者一人一人に着目し,服薬した後の症状の緩和度合や経過年数による症状の進行具合を調査することにも用いることができると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行上、次年度重症度3度以外のパーキンソン病患者に対するインソールセンサを使用した歩行の解析を行うこととなり、必要な経費等に充当する予定である。
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