研究課題/領域番号 |
20K12055
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
森田 雅宗 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (90708504)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リポソーム / 微生物 |
研究実績の概要 |
本研究では、真核細胞の起源とされる「細胞内共生」をモデルに、ホスト細胞と見立てたマイクロサイズの微小空間内に微生物が内包された人工細胞モデルをデザインし、真核細胞誕生時のような環境をモデルし、微生物の増殖等の生存に関する調査を行うことを目指している。今年度は、環境中から分離した微生物を、細胞サイズ(5~数十 μm)のリポソーム内に閉じ込め、リポソーム内部での環境微生物の増殖具合およびリポソームの安定性に関する影響について調べる実験を行った。リポソームが作成できかつ環境微生物が生存できる程度の栄養が存在する培地を検討しつつ、環境微生物が内包されたリポソーム作成に関する検討を行った。リポソームを安定的に作成する手法に、リポソーム内外に比重差をつける手法が用いられるが、本検討の結果、比重差なしでも比重差ありの手法とほぼかわらず1~数個程度の微生物が内包されたリポソームを作成することに成功した。環境微生物の増殖具合については、リポソーム内で密な状態で増殖しているものと、リポソーム作成時の初期状態から変化がないもの(生死判定はしていない)の両方が確認された。どのような微生物が増殖できるのか、今後、これらサンプルを回収して調べることを検討したい。培養時間の経過に伴うリポソームの安定性については、一部のリポソームで壊れている様子が確認できたが、リポソームが安定であることがわかった。しかし、比重差ありの方法で作成したサンプルでは、培養時間の経過に伴い、リポソームの膜構造は保持されているが、膜上に穿孔等のわずかな欠損があるためにリポソーム内外の物質移動が起きる現象が確認された。このように環境微生物を内包してもリポソーム膜が安定であることがわかり、今後様々な分析実験に展開できる可能性が見えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、マイクロサイズ空間として5~数十 μmサイズのリポソームを用いて、ホスト細胞と見立てたリポソーム内で環境微生物の培養を試みた。1~数個程度の環境微生物が内包されたリポソームを安定的に作成することに成功した。また、菌種によるがリポソーム内部で環境微生物が生存できていることが確認でき、どのような微生物か分析するという新たな課題が得られた。また、環境微生物を内包してもリポソーム膜が壊れることなく安定的に構造を保てることがわかり、今後の長時間培養とそれによって得られるデータを定量的に分析できることが期待できる。このように当初計画していた環境微生物サンプルをリポソーム内部に再現よく封入することに成功し、さらに内部で増殖している微生物が確認できたことから、順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まずリポソーム内で環境微生物サンプルの長期間培養(生存)の状態を実現し、長期的に生存できる微生物の種を同定できるよう、定量的なデータを得ることを目指す。そのために、リポソーム作成時にリポソームに内包されなかった微生物の除去方法、増殖した微生物あるいは生存している微生物が内包されたリポソームの識別(検出)方法、分取法の検討を進める。また、上記では意図せず、リポソーム内外の環境が等しくなる(リポソーム内外の物質が移動)ように環境が変化していたが、これを人工的に制御できるようにすることで、内部の細菌の機能を制御(例えば物質生産など)できるような技術開発にも挑戦することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度もコロナ等の感染症対策およびそれに付随した社会情勢を鑑みて、出張等をオンラインに切り替えるなどの措置をとったため、旅費等の使用がなく次年度以降の使用が生じた。また、実験消耗品についても、一部サンプルは、弊研究所内にて採取していることにより新規に購入する必要性がなかったため次年度使用が生じた。今後の使用計画としては、リポソームやw/oドロップレットを大量に作製するためのチップなどの消耗品の使用および、微生物サンプルの解析・分析等、適宜得られた研究成果を学会等で発表するなど活動への参加等を予定している。
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