研究課題/領域番号 |
20K12062
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
浦久保 秀俊 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 特任助教 (40512140)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヘテロシナプス可塑性 / Ca2+シグナル / 反応拡散シミュレーション / 計算論的神経科学 |
研究実績の概要 |
共同研究者のLaxmi Kumar Parajuli博士よりFIB-SEMを用いて撮影した3次元EM画像の提供を受けた(Parajuli et al. 2020, eNeuro 0248-20.2020)。撮影領野は海馬CA1、大脳新皮質(体性感覚野)、背側線条体である。各領野からスパインを持つ樹状突起の3次元形状を手動で抽出した。さらに、形状データをErik De Schutter(OIST)らが開発したシミュレータSTEPSへ導入して、まず単一スパインにおけるNMDA受容体活性性のCa2+流入のシミュレーションを行った。その結果、Ca2+がスパイン内に保持されるためには、スパインの首(ネック)が細いことよりも、むしろスパインが長いことが重要であり、長いスパインを持つ大脳新皮質・線条体よりも、短いスパインを持つ海馬CA1においてCa2+シグナルが樹状突起に流出することが明らかとなった。これは、海馬CA1においてスパインCa2+シグナルが樹状突起を介して他スパインへと伝達し、ヘテロシナプス可塑性が生じる可能性を示唆する。 ただし、CPU並列で計算を行うSTEPSでは、個々のスパインのシミュレーションを行うには十分であっても、樹状突起のシミュレーションを行うには計算速度が遅すぎる。そこで、より高速にシミュレーションを行えるGPU並列の反応拡散シミュレーションに注目し、GPUシミュレータLattice Microbesを用いた樹状突起Ca2+シミュレーションの準備を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画当初の予定通り、単一スパインについてのシミュレーションをCPUシミュレータSTEPSで行う事に成功した。また、当初の予想通り計算速度の問題に直面したため、GPUシミュレーションのセットアップを開始している。さらに、スパイン形状の性質をより効率的に定量化するためのツールの開発を開始しており、樹状突起空間におけるシミュレーションを十分実用的に行う事ができる様になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
GPUシミュレータLattice Microbesは、もともと大腸菌における生化学反応をシミュレーションするために開発された。そこで、同シミュレータをニューロン樹状突起におけるCa2+シグナルのシミュレーションを行えるように拡張する。また、シミュレーションと並行してスパイン形状の形態的特徴を定量化するツールの開発を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、プログラムの一部を開発業者に委託する予定であったが、プログラム開発を目的とした他予算に採択されたため、それを充当した。一方、GPUシミュレーションを行う事となったため、次年度以降に高度なシミュレーション技術を持つ人材が必要となる。そのため、予算を次年度以降に持ち越したい。
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備考 |
UNI-EM: EM画像セグメンテーションのためのソフトウェア
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