研究課題/領域番号 |
20K12064
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
嶋吉 隆夫 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 准教授 (60373510)
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研究分担者 |
竹田 有加里 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (20582159)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 計算生理学 / データ科学 / イオンチャネル数理モデル / ベイズ推論 |
研究実績の概要 |
細胞を構成するタンパク質などに対する生理学実験データには個体差によるばらつきが生じる.分子レベルの生物物理学的現象についての生理学実験データから同定した要素モデルを集約して構築した包括的細胞モデルでは,従来,実験データに含まれる個体差によるばらつきを考慮せずにパラメータ値を点推定しており,細胞レベルのマクロな振る舞いにおける個体差による差異は再現できなかった. そこで,令和2年度は,細胞を構成する機能タンパクであるイオンチャネルを対象に,数理モデルのパラメータ値の分布を推定する方法を検討した.まず,ある一種類のイオンチャネルと,そのイオンチャネルに対する生理学実験結果である開閉状態滞在時間のヒストグラムデータを対象として,研究を進めた.最初に,イオンチャネルゲーティングの時間的状態変化を表現する複数状態マルコフ状態遷移モデルについて,状態滞在時間ヒストグラムデータに対するモデルパラメータ値の確からしさを統計学的に表現する数式を導出した.次いで,導出した数式を用いて,ベイズ推論の手法であるMCMC法によるパラメータ値分布の推定に着手した.ここで,導出した数式には陰的関数が含まれており,その計算には連立方程式の根を求める線形代数計算が必要となる.一般的なMCMC法の実装では,確率モデルは陽的に記述されることを前提としていることから,MCMC法ツールを改良する必要が生じた. これとは別に,分担者の竹田は,本課題の推進に必要となる実験データの取得のために,予備的実験を含めて生理学実験を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症対策への対応に多くのエフォートが割かれたことから,本課題の遂行に必要な時間を充てることができなかったため,計画段階の予定より研究が進捗していない.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に着手した,イオンチャネルゲーティングの数理モデルについて,イオンチャネルのゲート電流レコードから,ベイズ推論の手法であるMCMC法を用いて,パラメータ値分布を推定する方法について,研究を進める.その後は,他の種類のモデルや実験データについても,MCMC法を用いたパラメータ値分布推定方法の研究を進める. また,分担者の竹田は,これまで同様,要素モデル同定のための分子レベルの生理学実験を進めていき,必要な実験データの収集を行う. なお,現状では,国際会議等に参加して他の研究者らと本課題についての議論・意見交換を行うことは困難だと予想されるので,生理学的側面よりも数理的側面を主眼に研究を進めることを考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
課題応募時点では,GPGPU専用ボードを搭載したワークステーションを購入する計画だったが,配分額では予定のワークステーションは購入できないことから,交付内定時点では,研究発表や生理実験用経費を除いた残額でGPGPU専用ボードだけを購入する計画としていた.しかし,その後,購入に向けて具体的に調査したところ,配分額ではGPGPU専用ボードだけでも購入には不足していることが分かり,予算計画を全体的に見直す必要が生じた.現時点では,予算の範囲内で購入できる通常の計算機を,令和3年度以降に必要に応じて購入することを考えている. また,新型コロナウィルス感染症の世界的流行に伴い,予定していた国内外の学会への参加ができなくなったことから,令和2年度は,生理学実験にのみ予算を消化することになった.
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