本研究は大きく下記3ステップより成る(a) ゲノムワイドな候補転写因子の探索、(b) 独自の分子動力学法(MD)を用いたメカニズム解析、(c) 実験による検証。 (a) 蛋白質のデータベースであるUniProtよりヒト転写因子をゲノムワイドに取得し、天然変性領域(IDR)予測を網羅的に行った。さらにリン酸化部位のデータベースであるPhosphoSitePlusの情報をマッピングし、DNA結合ドメイン近傍のIDRに3ないし4残基間隔で2つのリン酸化部位が存在する転写因子を絞り込んだ。さらに目視で検討を行い、FOXO4、TGIF1、PC4の転写因子をリン酸化ラッチ機構を持つ転写因子の候補として同定した。 (b) これら転写因子についてMDによる検討を行った。IDRによる複雑な構造アンサンブルをより正確に解析するため、MDの技術開発や基礎的検討も並行して行った。特に、独自のMD手法としてVirutal-system coupled canonical MD法の開発を行い、またMD計算を実施するためのソフトウェアとしてmyPresto/omegageneを開発した。転写因子FOXO4については独自の手法であるvirtual-system coupled multi-canonical MD法を適用し、TGIF1およびPC4ではさらに発展させた手法であるvirtual-system coupeld canonical MD法による検討を行った。いずれについてもDNA結合ドメインとその近傍のIDRを含む分子モデルを構築し、IDRのダイナミクスを解析した。特にFOXO4とTGIF1ではリン酸化状態と非リン酸化状態両方について計算をおこない、IDRのリン酸化部位がDNA結合領域と相互作用する結果が得られた。これは進化的に類縁関係にない複数の転写因子において共通してリン酸化ラッチ機構が働いていることを示唆し、そのメカニズムの普遍性をサポートしている。その結果を元に、(c)仮説を検証するin vitro実験の設計および予備的検討を進めた。
|