研究課題/領域番号 |
20K12073
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
高木 英明 筑波大学, システム情報系(名誉教授), 名誉教授 (30260467)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 医療・福祉 / サービス工学 / 医療サービス工学 / 数理工学 / 確率決定過程 |
研究実績の概要 |
本研究では2つの課題を設定している。第1の課題は、急性期病院における診療科別入院患者の病棟間移動を数理モデル化し、各病棟の毎日の在院患者数の度数分布を理論的に計算する方法を完成することである。第2の課題は、非根治すい臓がん患者を例に取り、進行性慢性病患者の治療目的(化学療法を続けるか、緩和ケアに転じるか)に応じて、病気ごとの最適治療法を医師に提示できるMarkov決定過程モデルを開発することである。 第1の課題については、筑波大学附属病院における2年間にわたる新生児入院患者の病棟間移動の定常過程をMarkov連鎖で定式化し、通常病棟と新生児用ICUに在院する日次の患者数の度数分布を理論的に予測する研究の成果を、昨年度、専門誌 Health Care Management Science 誌に発表した。引き続き、同病院における診療科病棟間を移動する小児科患者の病棟間移動を集計・分析して、システム工学的モデルを構築する研究に取り掛かったが、入院中の転診療科や外泊・帰院、一旦退院した後の再入院等の複雑な行動を取り入れて正確なモデルを作るのに苦心している。 第2の課題については、令和2年2月より、神奈川県立がんセンター臨床研究所客員研究員として、既に死亡した患者の電子カルテを閲覧できる許可と消化器内科の臨床医師の協力を得て、ここ数年間に同センター病院で治療を受けたすい臓がん患者のカルテから治療・投薬・看護等に関するキーワードを抽出し、それぞれがカルテに現れる頻度とキーワード間の関係の分析を行った。しかし、治療過程の数理モデルの構築まではできていない。 これらの課題には、確率決定過程の理論を応用するが、その基本形である最適停止問題の応用として、通称「秘書問題」と呼ばれる一連の数理工学的問題の解法を解説する著作(単著)を令和4年5月に刊行する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記5に記した第1の研究課題について、当該病院の業務オーダー・ログデータから小児科患者の病棟間移動に関連するログだけを取り出し、それをネットワーク・フロウのシステム工学的モデルに乗せて、病棟間移動数に関する指標を、患者の流れに沿った病棟滞在時間と、病棟ごとに定点観測する在院患者数の確率的変化を計算して、整合性のある大域的動的モデルの構築を目指したが、実データの分析結果と数値モデルの理論計算の結果が完全には一致していない。 第2の研究課題については、まず、電子カルテの中から、治療過程を特徴づける診断用語や投与剤の名称を抽出することから始めたが、すい臓がんの病態の多様性に比べて、患者数が少なく、また入院期間(存命期間)も短いので統計処理ができるだけの十分なデータ数が得られないことが分かった。そのため、すい臓がんのような複雑な治療過程ではなく、例えば、前立腺がんを早期発見するPSA(前立腺特異抗原)値の推移からMRI及び前立腺生検を行うべき最適時期を決定するというような単純な確率的決定モデル化を検討している。 令和3年度も、新型コロナ感染防止のため、対面しての学会発表や情報交換の機会がなく、新しい研究課題について、研究者どうしで時間をかけて討論や検討ができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
第1の課題については、小児科患者の病棟間移動に関する数理モデルとオーダー・ログデータの統計処理の齟齬の解消を目指す。その一方で、ここで開発したモデルを、新型コロナウィルス感染者や濃厚接触者を病院や収容施設(ホテル等を含む)に受け入れ、重篤度に依存して病院内病棟や収容施設間で移動させる過程のモデルに応用することが考えられる。1つの病院内での患者移動では、患者の病院内滞在が病院にもたらす負荷として病床の占有だけを考えたが、コロナ感染者の収容モデルでは、患者の診療に当る医師・看護師等の医療従事者の逼迫も問題になっていることから、それらも考慮に入れるが、理論的に取扱うことができるシステムの過程である。このモデルにより、各都市に対し、コロナウィルスの変異株別・重症度別の感染者数の予測に基づいて、必要な病床数・医療従事者数を予測することができる。一方、感染者数の予測については、移民のある出生死亡確率過程の理論が適用できるので、両者を融合したモデル化が可能である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度になっても、新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延が終息せず、海外及び国内の研究集会がほとんど全てキャンセル又はオンライン開催となり、また、国内の大学等に在籍する研究協力者との打合せも、対面を避けて、電話やZoomで行った。そのため、令和3年度に見込んでいた旅費を執行できなかった。令和4年度もコロナの蔓延状況は大きく変わらず、研究集会のオンライン開催が常習化してきたので、旅費の執行は多くならないと予想されるが、令和4年度は本研究課題の最終年度になるので、成果の雑誌発表等の経費として使用したい。
|