テキストベースのメッセージ交換を主とするコミュニケーション手段では,相手の表情や仕草を見たり,声を聴いたりすることができないため,メッセージの意図(主にメッセージの感性的側面)を正確に捉えることができないことも多い.このような問題を回避するために,顔文字や絵文字のような非言語表現が用いられることもあるが,その用法は直感的であり,顔文字や絵文字がメッセージの感性的側面に対しどのような影響を及ぼしているのかに関しては不明な点も多い. そこで本研究では,国語学者の中村明が提唱した10個の基本的な感情分類である「悲しい,嫌い,安心,怖れ,高揚,好き,喜び,驚き,怒り,恥ずかしい」を対象に,ツイートの感情,顔文字の感情,顔文字付きツイートの感情のそれぞれを10次元ベクトルとして定量的に扱うことで,顔文字から感じる様々な感情がツイートから感じる様々な感情にどのような影響を及ぼすかを定式化するとともに,その成果を代表者らが開発したツイート感情推測手法と統合することで,顔文字が付いたツイートからツイート投稿者の感情を推測するための手法を提案した.さらに,より粒度の細かいネガティブな感情(不満,不安,失望,苦悩,躊躇,苦痛,偏見,差別)も扱えるようにするために,新型コロナウイルス感染症やコロナ禍に関するネガティブな事柄に関して呟かれたツイートを1万件以上取得し,クラウドソーシングを利用して各ツイートの感情を定量化することで,こういったネガティブな感情に対してもツイート投稿者の感情を推測できるようになった. 特に令和5年度は,これらの成果発表に努め,4件の学会発表を行った.
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