研究課題/領域番号 |
20K12093
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
瀬戸崎 典夫 長崎大学, 情報データ科学部, 准教授 (70586635)
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研究分担者 |
全 炳徳 長崎大学, 情報データ科学部, 教授 (10264201)
森田 裕介 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (20314891)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バーチャルリアリティ / タンジブルユーザインタフェース / 平和教育 / 学習コンテンツ |
研究実績の概要 |
昨年度までに開発された没入型タンジブル平和学習用VR教材に,原爆投下後のバーチャル環境を実装した.学習者は,テーブル上に建物模型を配置し,原爆投下前の長崎市の街並みを再現する.その際,建物模型で再現した街並みは,バーチャル環境にもリアルタイムで構築される.また,HMD(Head Mounted Display)を装着することで,学習者らが構築した「模型ワールド」に入ることができる.次に,両手に持ったコントローラによって,当時の街並みの詳細や生活感を示した「原爆投下前」に切り変えることができる.さらに,両手のコントローラのトリガーを引きながら,バーチャル環境のコントローラの先端に表示された2つの球体を接触させることによって,「原爆投下後」に切り変えることができる. 本教材を体験した高校生から社会人を対象に主観評価によるアンケート調査を実施した.参加者らは,「興味・関心」,「学習意欲」,「臨場感」,に関する質問項目に回答した.また,質問項目に対する肯定回答と否定回答をそれぞれ算出し,人数の偏りについて直接確率計算を行なった.主観評価の結果,被爆前後の長崎の様子や第二次世界大戦について知りたくなるような導入教材としての可能性が示された.また,高い臨場感を与えるとともに,被爆者の気持ちを想像させる可能性が示唆された.今後は,バーチャル環境での情報提示を充実させ,被爆体験者との心理的距離の縮小に関する学習効果の検証が課題である. なお,本研究で得られた知見について,JSET全国大会(春季大会)において発表を行なった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の研究計画から引き続き,没入型タンジブル平和学習システムを完成させる必要があり,原爆投下後のバーチャル環境を構築することができた.一方,スタンドアローン型VRセットを利用して,複数名で歩き回りながら自由に探索できる仕組みの実装には至っていない.なお,試験的に2名の学習者がバーチャル環境に入り,対話やジェスチャーによる学習活動が可能であることは昨年度から確認済みである.スタンドアローン型VRセットへのシステムの移行については,単独での活動であれば実装はできており,複数名が同時にバーチャル環境に入った際のエラー回避に時間を割いたことが,開発の遅れの原因となっている.現状として,エラーの原因までは突き止めることができているため,今年度で具体的な協働学習の場の設定に取り組む予定である. また,今年度の研究計画では,原爆被害に対する共感性創出を目的とした授業実践と評価を行う必要があったが,開発の遅れが一因でもあるが,コロナ禍の影響により教育現場での実践が困難な状況であり,実践・評価に至ることができなかった.教育現場での評価の代替として,長崎県で開催されたICTフェスタで本教材を展示し,およそ200名程度の参加者に体験をしてもらい,50名程度からアンケートを回収して評価を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,制御PCを必要としないスタンドアローン型VRセットOculus Quest 2(Meta社製)を用いて,学習者らが構築したVR環境を複数名で歩き回りながら自由に探索できる仕組みを実装する必要がある.そこで,具体的に本教材に実装し,インタフェース評価を重ねることによって,複数名によるバーチャル環境での学習環境を実現する.また,インタフェース評価の結果から,バーチャル環境での活動において,学習者が何をして良いか分からないような状況が観察された.したがって,原爆投下前後のバーチャル環境において,学習者が当時の情報を収集できるような,インタラクティブなコンテンツを実装することで,本教材を拡充する.また,教育現場における本教材の評価に向けて,今年度も引き続きコロナ禍によって,学校での実践が困難であることが想定される.したがって,少人数での特別授業としての実施の検討など,授業デザインについて学校と協議しつつ,最適な方策を考えていく方針である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による学会発表のオンライン化や,対面による打ち合わせをすべてオンライン化したことによって,出張旅費を使用しなかったため.また,予定していた中学校や高校を対象とした授業実践もコロナ禍の影響によって中止せざるを得ず,機材運搬費等の支出がなかったため,次年度使用が生じた. 次年度使用額については,出張旅費や授業実践における費用の捻出は困難であることが想定されれるたため,タンジブル平和学習システムを,より充実したコンテンツにするために必要な改善費として使用予定である.
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