研究課題/領域番号 |
20K12101
|
研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
竹内 和広 大阪電気通信大学, 情報通信工学部, 教授 (20440951)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 学習支援システム / ソフトウェア工学 / プログラム解析 / プログラム学習 |
研究実績の概要 |
当初計画を踏まえ、プログラムの多様な作成・編集過程をベクトル空間上で表現する分散表現の研究・開発を行うため、以下のような活動を行った。 まず、プログラムを表現する一般的な構造であるAST(Abstract Syntax Tree)に対するベクトル表現を得る手段の基本として、グラフ構造からベクトル表現を得ることに用いられている既存研究で開発された一般的なツールを拡張することに取り組んだ。具体的には、プログラム作成過程を扱うことに適したグラフの構造的な符号化のモデルを提案し、プログラム演習課題に対して提出された完成プログラムをベクトル表現に変換し、多様なプログラムに対してクラスタリグが実施できるようになった。次に、膨大な完成プログラムをクラスタリングした結果を、プログラム作成過程の初期状態から完成に至る多様な過程と見立て、プログラム作成中の過程を整理し、プログラム作成過程データベースを構築した。 試作したプログラム作成過程データベースを基本に、プログラム学習者の作成中プログラムを扱えるように、AST(Abstract Syntax Tree)の編集過程に対応して文法規則に対する編集操作が行えるように拡張した拡張ASTを定義した。具体的には、データベース中の中間状態であるコンパイル不可能なプログラムをベクトル表現だけではなく、拡張ASTで扱えるようにし、任意のコンパイルのできないプログラムをプログラム作成過程データベース中の類似する状態として扱うことが可能となった。 以上の活動により、研究計画の初期段階の目標であったプログラム学習者の理解過程のパターンを定量的に把握・分析可能にする枠組みの基礎を構築することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プログラムの多様な作成・編集過程をベクトル空間上で表現する分散表現の研究開発に関しては、研究開始以前からASTからの特徴抽出研究や、文章からの語の分散表現研究を行ってきた実績を当該課題に対して堅調に発展させることができ、研究の基盤構築に関しては順調な進捗となったと考える。また、当補助により、計算用ワークステーションを購入し、計算機を占有した長時間の計算実験が可能となり、研究開発における試行錯誤を円滑に進められるようになったことが進捗に大きく貢献した。 他方、作成技術の発展や改良点の情報収集を目的とした各種学会や研究交流については、新型コロナウィルス蔓延を防止する観点から、学術交流が極めて制限される形になってしまったことにより、当初計画していた国内外での学会における情報交換や交流、専門知識を持つ教育専門家といった有識者に対しての意見収集が困難であった。特に、プログラム教育を専門とする実践者や関連研究者との交流関係を新たに築くことが難しい形となり、既存のプログラム学習システムの援用や活用といった方向性での学習者のプログラム作成過程に対する知見収集は計画変更せざるを得なかった。 また、研究代表者の勤務する大学においても他の講義・演習・実験科目と同様に、プログラム教育も遠隔教育を前提とした試行錯誤の中で実施される形となり、実験的なプログラム学習環境を試作し、新規の環境を学習者が試用利用した意見を得る機会を設定することが困難であった。 以上の状況から、現在までの進捗状態は当初計画に対して研究開発そのものは堅調に進捗しているものの、関連研究者や有識者との交流に基づく意見の取り入れや改善については当初計画を再考した方向性に調整せざるを得なくなっており、総合的な進捗としては「やや遅れている」と判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
既に研究の基盤となる、プログラム作成過程データベースの試作や、作成中のプログラムのベクトル表現を得ることは可能となっているため、実際の学習者のプログラム作成パターンの分類と定量評価に向けたシステム開発や情報収集を計画する。 実施初年度の2020年度は、学習者の躓きに代表される特徴的な作成過程について、プログラム教育指導の経験が豊富な研究協力者や有識者から知見を求めることが充分に行うことができなかった。しかし、世界的な環境変化の中、国際会議や国内での研究会合の開催方向がオンライン化されるなどのコミュニケーションの形が変化してきていることに対応して、2021年度は積極的に新しい時代の情報交換・研究交流の手段を活用し、プログラム教育に関する教育的知見を収集・整理していきたいと考える。具体的には、オンラインでの学会等の活動に積極的に参加し、研究協力者や有識者との活発な交流機会を作り、試作したプログラム作成過程データベースを基盤にして整理したパターン分類や定量評価の適切性・有効性を、得られた意見や知見を踏まえて、さらに目的に即したデータベースとして改善する計画である。 また、対話的な学習支援に向けて、学習者の状態特定と各状態における学習支援発話の生成システムについても試作を開始し、適切な学習支援発話生成のための意見・情報収集の基盤を確立する計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウィルス感染症の蔓延防止の観点から、初年次に計画していた国内外の学会における情報収集・交換が実施できず、また、教育研究者の実践者からのデータや専門知識の収集を行うことが困難であったため、前者のために計上した旅費、後者のために計上した人件費・謝金を使用できなかった。 2021年度は、上記の予算執行を当初予定を後ろ倒しにして実施する計画である。なお、その際、国内外の学会や人的交流のオンライン開催が進む世界的なコミュニケーション形態の変化に対応する形で研究目的に即した有効な予算執行を実施していく計画である。
|