研究課題
近年、南極氷床の質量損失が加速しており、全球海水準の上昇が懸念されている。氷床質量損失を加速させている主な要因は「周囲の海」による棚氷底面融解の促進であり、精度の高い海水準変動の将来予測には氷床質量損失に対する海洋の本質的な役割の理解が不可欠である。沖合暖水の流入による氷河の融解加速が相次いで報告されている西南極とは対照的に、東南極沿岸域は「冷たい海」として広く認識されてきた(Schmidtko et al., 2014など)。このような背景のもと、東南極白瀬氷河域における顕著な融解プロセスをもたらす背景要因の解明を目指し、令和5年度も砕氷船「しらせ」によって白瀬氷河近傍での海洋観測データ(水温・塩分・溶存酸素・圧力・流速・酸素同位体比サンプル・海底地形)を取得した。これまでに蓄積してきた海洋観測データと海面力学高度データセットおよび数値モデル結果を融合して解釈すると、白瀬氷河域の顕著な底面融解をもたらす外洋側の背景要因として、ウェッデルジャイヤ/定在渦や斜面ジェットが重要であることが分かった。さらに、他の東南極氷河(トッテン氷河)での知見と比較することで、氷河近傍大陸棚上における暖水分布や海底地形・循環場の特徴には海域特有の地域性が存在する一方、沖合暖水を大陸氷河方向へと効率的に輸送する時計回り循環(ジャイヤ、定在渦)の存在が、東南極域で暖水流入を伴う顕著な棚氷底面融解をもたらす外洋側の共通背景要因の1つであることが見出され、体系的な知見を得ることができた。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
The Cryosphere
巻: 18 ページ: 43~73
10.5194/tc-18-43-2024
Nature Communications
巻: 14 ページ: -
10.1038/s41467-023-39764-z