研究課題/領域番号 |
20K12135
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
井上 麻夕里 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (20451891)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | サンゴ骨格 / 温暖化 / 海洋酸性化 / 間接指標 / 東南アジア海域 |
研究実績の概要 |
本研究では東南アジア海域から採取されたサンゴ骨格試料を用いて、全球同時的な地球温暖化が開始した時期、および地球温暖化を含む全球規模の人間活動の局所的な海域への影響評価を目的としている。本年度はバリ島のサンゴ骨格試料中のSr/Ca比および酸素・炭素同位体比測定を数ヶ月単位の高時間分解能で実施し、フィリピンのサンゴ骨格について、海水のpHの暫定的な指標とされているU/Ca比を約5年おきの時間分解能で測定した。バリ島の結果からは、まず年輪カウントによる年数と化学分析による年数が一致していない箇所があり、このサンゴの年輪形成機構について精査する必要があることが分かった。実際、サンゴ年輪の形成については不明な点も残っているので、この試料を用いて年輪形成機構について明らかにすることができれば興味深い。今回は酸素同位体比の季節変動が明瞭に見られたので、その結果を元にして年代を決定した。その結果、バリ島のサンゴ試料には約60年の記録があることが分かり、酸素同位体比、Sr/Ca比双方の結果からは、バリ島では現在に向けての明瞭な温暖化傾向は認められなかった。バリ島はモンスーンやENSO、インド洋ダイポールなど様々な種類の大気海洋の相互作用を受ける海域であり、その海洋環境は複雑である。このような海域では全球の温暖化傾向よりもよりローカルな影響を強く受けている可能性が示唆された。一方、特に1970年代以降全球同時的な温暖化傾向が見られているフィリピンのサンゴ試料中のU/Ca比からは、過去から現在に向けての直線的なpHの低下、つまり海洋酸性化傾向は見られなかった。その代わり数十年規模でのU/Ca比の変動が見られており、フィリピン周辺のpHの異なる水塊がミンダナオ海流の変動に伴い影響している可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はコロナ禍の中で、一部分析ができない期間があり、出張には全く行けない状況であった。その中でも、所属している大学内でできることから取り組むことができた。計画段階では優先順位が1番目であったバリ島のSr/Ca比と酸素・炭素同位体比の測定は予定通り終えることができたが、ブナケンについてはコロナ禍の影響もあり、まだ一部の分析が終了していない。一方で優先順位は低かったが、大学内で学生と取り組むことができることからフィリピンのU/Ca比分析を優先的に進めることができ、新たな発見に繋がるような結果が得られつつある。このように、計画段階では予測できなかったコロナ禍の中での研究ではあるが、計画段階の順番に縛られることなく臨機応変に対応することで、研究全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、様子を見ながら全国共同利用制度を利用してブナケンのサンゴ骨格中の酸素・炭素同位体比測定を進めていきたいと考えている。同時に、フィリピンのU/Ca比の分解能を上げていくことも予定している。全体的にデータが出揃ってきたら、データを精査し、再測定などを必要に応じて実施していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりICP-MSを使用したSr/Ca比やU/Ca比の分析が進んだため、次年度に実施予定であった分析を繰り上げて進めることができたため。
|