今年度は、フィリピンの長尺サンゴ試料のSr/Ca比および酸素同位体比の測定結果について時系列解析等を行い、1766~2002年までの海水温と塩分の記録を復元した。その結果、海水温と塩分には数年~数十年規模の変動が見られ、特に海水温の変動はエルニーニョ・南方振動(ENSO)の影響を受けつつも、主には太平洋十年規模変動(PDV)の影響を強く受けて変動していることが示唆された。また、19世紀~20世紀初頭にかけて、何度か寒冷化が起きており、これがインドネシアおよびフィリピン地域の火山噴火に伴う寒冷化である可能性が示された。このようなENSOやPDV、火山噴火等の自然要因の気候変動について、先行して報告されている西太平洋のサンゴ記録では、今回のフィリピンとは異なる変動パターンが示されており、海水温の反応は複雑であることが分かった。それに対して、1976年以降は全球の海水温変動を含め、人為的要因による温暖化に対して西太平洋熱帯域が一様に温暖化していることが明らかになった。また、特にこの期間は夏の温暖化が冬に比べ顕著であることも示された。この結果から、現在では人為的要因による二酸化炭素放出に伴う温暖化が、自然の気候変動を圧倒し支配的になっていると推察される。この研究成果は、Paleoceanography and Paleoclimatologyにて公表した。本研究では、インドネシア多島海の中でも、場所によってENSOなどの気候現象に対して海水温との関係性が異なること、また、海水温と塩分変動の挙動も異なることが明らかになった。また、近年の温暖化に伴い、フィリピン・ビコール湾では温暖化傾向が、バリ島沿岸では寒冷化傾向が認められるなど、温暖化に対する反応も海域によって異なることが示唆された。
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