研究課題
急速なアジアの発展に伴って近隣諸国から日本へ飛来する汚染物質が増加している。なかでも、窒素を含む化合物(窒素降下物)は植生を変化させ、生態系へ深刻な影響を与えるとされる。大気から窒素降下物を効率よく吸収するコケ植物は窒素汚染の影響を受けやすく、生態系の窒素循環を理解するためのカギの一つになると期待される。そこで、本研究では窒素汚染に対するコケの応答に着目し、(1)コケの窒素吸収特性や、(2)森林における窒素蓄積に担う機能を評価し、(3)窒素負荷の増大がコケを介して生態系の窒素循環に与える影響について考察した。まず、雨水に含まれる窒素成分がコケの窒素含有量に与える影響を分析した結果、コケの窒素含有量は雨水の窒素濃度と強い相関があった。そこで、雨水の窒素濃度とコケの窒素含有量・生長量との関係を解析すると、一部の種では雨水の窒素濃度の増加に伴ってコケの窒素含有量・生長量も増加した。しかし、窒素降下物の総量が閾値を超えるとコケのバイオマスが減少するという報告もあり、長期的な視点でコケの窒素応答を評価する必要がある。次に、日本の代表的な植生でコケに蓄積されている窒素量を算出した結果、亜高山帯針葉樹林や高層湿原において、コケは窒素プールとして大きな役割を果たしていることが確認された。ただ、高山帯の一部では、コケの窒素含有量が生育を阻害するレベルにまで高まっており、窒素降下物の増加がコケ群落の衰退につながることが指摘された。さらに生態系の窒素循環におけるコケの役割について分析を進めたところ、倒木上ではコケは群落直下の窒素量を増加させ、倒木の分解を促進していることが示唆された。以上より、コケは生態系において窒素プールや窒素循環に重要な機能を担っていることが明らかになった。しかし、窒素降下物の増加に伴ってこの機能が変化し、コケを介した森林の窒素循環に影響を及ぼすことが危惧される。
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Environmental Nanotechnology, Monitoring and Management
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蘚苔類研究
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