土壌圏を取り巻く将来的な環境変化は温暖化に伴う直接的な温度上昇のみならず植物バイオマスの増大や窒素沈着量の増加など複合的なものとして考慮する必要がある。本研究ではこのような土壌圏に対する複合的インパクトが土壌炭素分解速度にどのような影響を及ぼすのか、また、その変化はどのようなメカニズムで生じるのかについて明らかにすることを主目的としている。 最終年度である令和4年度はこれまでの結果の再評価および詳細なメカニズムの解明を目的にいくつかのモデル実験を試みた。まず未熟土と黒ボク土を用いてCO区(現環境を想定)およびFU区(将来環境を想定)を設定し62日間の培養実験を行った。CO区とFU区は平均温度が3℃異なっておりそれぞれに13C標識グルコースを250、500 μgC g-1、硫酸アンモニウムを15、30μgN g-1添加した。各土壌におけるCO区とFU区の炭素収支を比較すると未熟土でほぼ違いはなかった一方で黒ボク土では有意に低下した。この炭素収支の低下、すなわち炭素の損失は主に土壌由来炭素の分解促進が寄与していた。未熟土を用いた173日間の培養試験では複合的インパクトが土壌炭素分解の温度依存性(Q10)に及ぼす影響について調べた。その結果、炭素源(枯死細根)よりも窒素源(NH4-N)の添加による影響が大きく、窒素沈着に伴いQ10は有意に低下した。これまでの結果も総合的に踏まえると以下のことが明らかになった。1. 土壌炭素の温度依存性は植物バイオマス(炭素源)の影響のみを考慮した場合に比べ窒素沈着も同時に考慮すると低下する傾向である。2. 未熟土に比べ黒ボク土の方が複合的なインパクトに対する応答性が高い、すなわち炭素損失率が高まる。今後はこのような複合的インパクトに対する土壌応答の違いが何に起因しているのかについてより詳細に調べていく必要がある。
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