研究課題/領域番号 |
20K12141
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
石井 弓美子 国立研究開発法人国立環境研究所, 福島地域協働研究拠点, 主任研究員 (00620402)
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研究分担者 |
和田 敏裕 福島大学, 環境放射能研究所, 准教授 (90505562)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 淡水魚 / DNAメタバーコーディング / 食性解析 / ヒゲナガカワトビケラ |
研究実績の概要 |
福島県において、震災後10年以上が経過した2022年においても淡水魚の放射性Cs濃度は一部の地域・魚種で高く出荷制限が続いている。環境内から淡水魚に取り込まれる放射性Csの由来を明らかにすることは、淡水魚の放射性Cs 濃度推移の予測精度を向上させ、内水面漁業再開の将来展望を得るために重要である。本研究では、(1)淡水魚のDNAによる食性解析と (2)多様な食性の水生昆虫と淡水魚の解剖実験により、餌となる生物からの放射性Cs移行を明らかにし、淡水魚への放射性Cs 取り込みに重要な餌生物と移行経路を評価する。
2021年度の成果として次のことが明らかになった。(1) 前年度に検討の上に決定したヤマメのDNAメタバーコーディングによる食性解析におけるプライマーや解析方法を用いて、太田川上流部の3つの調査地点のヤマメを解剖し、消化管内容物を用いてDNAによる食性解析を行った。DNA食性解析により多様な水生昆虫と陸生昆虫が検出され、季節と調査地点によってヤマメ個体の餌生物が大きく異なることが明らかになった。(2)水生昆虫を解剖して栄養段階間の放射性セシウム移行係数(消化管内容物の放射性セシウム濃度/捕食者筋肉組織の放射性セシウム濃度)を計算したところ、ヒゲナガカワトビケラでは0.02±0.01、ヘビトンボでは0.43±0.10程度であった。デトリタス食のヒゲナガカワトビケラでは胃内容物の放射性セシウム濃度が高いものの筋肉組織に移行しにくいのに比べ、肉食のヘビトンボでは胃内容物の放射性セシウムがより筋肉組織に移行しやすいと考えられた。また、ヒゲナガカワトビケラの放射性セシウム濃度測定の際に、放射性セシウム濃度が散発的に高い個体が見られ、これらの個体からは高線量放射性セシウム粒子が確認されたため、河川を流下する高線量粒子が生物に取り込まれることを示した初めての事例として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヤマメのDNAによる食性解析は順調に進捗している。また、淡水魚と水生昆虫の解剖実験による放射性セシウムの移行係数推定については、所内のGe半導体検出装置が一定期間使用できなかったことなどから測定に時間がかかっているが、おおむね測定を終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、昨年度解析したヤマメ胃内容物DNA食性解析のデータを元に、ヤマメ個体の放射性Cs濃度と餌組成の関係について、統計的な解析を行う予定である。また、ヤマメに続いてウグイのDNAによる食性解析についても試行を行う。栄養段階間移行係数については、淡水魚と水生昆虫の解剖実験の結果を取りまとめ、種間の食性や季節等との関係について検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会がオンラインになり旅費がかからなかったこと、当初予定していたDNA分析外部委託にについて、所内での分析が可能になったため使用しなかったこと等により、予算を次年度使用額として繰り越した。
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