研究課題/領域番号 |
20K12148
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
戸田 求 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 講師 (40374649)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生態系モデル / 気候変動 / 撹乱 / 統計モデル |
研究実績の概要 |
本課題の目的は、中・高緯度の代表的森林生態系を対象に、全球(グローバル)エネルギー・炭素フラックスデータベースを用いて、極端気象が誘発する生態系撹乱に着目した生態系応答解析、および炭素収支の将来予測に関する数値実験を行うことである。この研究では、保有する大気ー森林生態系モデルに撹乱スキームを結合することが重要である。昨年度(1年目)は、この前段階として撹乱スキーム選定を様々な文献調査を通して行い、導入可能なスキームを見つけることができた。現在、当該文献に基づいてスキームの開発を実施しており、本年度(2年目)秋ぐらいまでの開発完了を目標としている。次に、将来予測の数値実験を進める上での事前準備として、使用モデルにふくまれるパラメータ評価のためのデータ同化アルゴリズムの選定である。申請者が本研究計画段階で国際誌に投稿中であった、データ同化解析の論文が受理されたことでこの手法を用いた将来予測研究へのアプローチは可能である(Toda et al. (2020) Ecological Modelling)。一方で、近年の論文では異なるデータ同化手法が提示されるようになった。これらの特性を熟慮した相互比較をさらに進めつつ、適切な解析手法を検討しなければならないと考える。最後に、本年度において複数のプログラム言語を使ったコード開発を行なってきた(fortran, R, MATLAB)。これらのうち、前者二つはフリー言語であり、後者は有償アプリケーション言語であるが科学技術言語として世界的に汎用性が高い。申請書でも述べた通り、これら複数のプラットホームの敷設意義は将来の生態系評価やデータサイエンス分野の研究に関心を示すエンドユーザーの拡大である。この意味において、本作業は順調に進めることができたが、撹乱スキームとの結合を行うことでさらに完成度を高める用意がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5.研究実績概要にも記した通り、当初掲げた予定実施計画について7割程度は目標を達成できた、と筆者は考える。しかしながら、当初の研究計画の1,2年目で行う予定として挙げた、海外の研究協力者とのより本格的な研究打ち合わせについてはほぼ行うことができなかった。この理由は言うまでもなく新型コロナウイルスの感染拡大による影響のためである。研究協力者の国・地域(ドイツ)は国土全体にわたり感染増が2021年4月の現在もなお、収束の見通しがつかず全学がロックダウンの状態である。研究協力者との関わりの主な重要性は、構築する大気ー生態系モデルの検証となるデータセットの構築に関わる。現在は、当初考えていた対象検証サイトや対象地域を拡張させ、オープンソースでデータ公開がされているその他の森林対象地を精査している段階である。幸にして、近年の学術雑誌はここ10年程度で、データペーパーの認知度を高めた。その結果として、通常では得ることができないようなデータもインターネット上で公開されユーザ登録などの一定のルールに従うことでデータにアクセスできるようになった。そのため、直接的な交渉や議論が滞っていること自体は今後の研究を進める上で良い状況にないことは自明であるが、しかし、この学術雑誌のニーズ変革は現状況の悪影響を補完しうるものと思われる。そこで、今後はさらに利用可能なデータベースを吟味する。同時に、研究協力者との直接交渉・議論の場を本年・来年(2,3年目)にずらしつつ研究計画の実現可能性の維持を図ることとする。以上の点から、現状の課題点はよく認識しており、ゆえに研究の進捗具合はある程度順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
5.研究実績概要および7.現在までの進捗状況でも一部述べたが、今後の推進方策には大きく二つの方向性が存在する。一つ目は撹乱スキームと大気ー生態系モデルとの結合であり、二つ目は検証用データベースの対象拡大に伴うオープンデータベースの更なる精査と海外研究協力者とのより密接な議論の場の再構築である。前者については、着実に課題が克服されてきているため、最新の研究動向にも目を向けつつ、モデル開発を着実に進めることが可能であるが、これに伴い、特に有償アプリケーションのコーディングの一部でさらに有償ToolBoxの必要性が出てきている。これは当初申請した予算の範囲で対応することができるため、今後このToolBoxを取り入れることで作業を遂行する次第である。二つ目について、研究協力者との交流機会については例年とは異なる世界情勢が反映していることから、現段階では不透明な点が多いのも事実ではある。しかしながら、できる限りの研究交流を実現させたいと考える。この動向と関連し、昨年度においては国内・国外問わず学会のほとんどはオンラインで開催された。筆者は有志レベルの研究ミーティングには関わったものの、オンラインでの公式な学会発表に対しあまり積極的な反応を示さなかった。この点は反省し、本年度の開催学会には参加する方向で検討している。その一方で、学術論文2本に着手し、両者を投稿するに至ったが、例年以上に査読プロセスが遅くいまだに返答を得られていない状況である。そのため、これらの成果記載については2、3年目に持ち越しとなる見通しである。これらを総合的に判断すると、ある程度順調に進められた1年目での研究実施状況をうけて、今後も引き続き研究計画に沿って成果を具体的に生み出すよう心がけていく次第である。
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次年度使用額が生じた理由 |
この件に関する理由は、「現在までの進捗状況」および「今後の研究の推進方策」ですでに述べたとおり、当初予算使用を計画していた出張ができなかったことと、有償計算ソフト費に大きく起因するものである。これらの予算は次年度予算と重複するものではなく、次年度時早期に利用される必要経費であることをここに記載する。
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