研究実績の概要 |
本課題目的は北半球中・高緯度の森林生態系を対象に既存の炭素フラックスデータベースを用いて極端気象現象に対する生態系炭素応答評価のデータ同化実験を行うことであった。2020年度(1年目)は撹乱スキーム選定の文献調査と関連研究者とのオンラインミーティングを実施し、筆者が過去に用いたベイズ推定アルゴリズムと大気ー生態系モデルの使用が有効との意見で一致した。2021年度(2年目)では大気ー生態系モデルの選定を再吟味し、森林群落環境の詳細な記述ができる群落多層構造モデル(MINoSGI)に変更した。モデル変更に際し同モデル中に含まれる群落形状や葉傾斜角パラメータを決める必要があった。そこで冷温帯落葉樹林と北方林の代表的樹種値の計測調査を実施しこの成果を国際誌論文に公表した(Toda et al., 2022 Agricultural and Forest Meteorology)。2022年度(3年目)では当初検討していた撹乱アルゴリズムの一部に計算不安定性を誘発する要因が見つかり急遽アルゴリズムの修正に取り掛かった。これと並行し、仮想的な撹乱を想定して群落構造状態の違いが森林の総生産量(GPP)に及ぼす影響について当初と同じデータベースを用いた数値実験を行った。この研究結果は国際共同研究の一環で行われすぐに国際誌論文に公表した(Toda et al., 2023 Forest Ecology and Management)。現在はアルゴリズム改良とデータ同化数値実験を終え国際誌論文投稿の準備段階にある。以上より、当初の予定から少し遅延したが、公表論文内容は撹乱影響を受けた後の森林炭素収支影響を反映した結果である点や本来目的としたデータ同化実験も着実に実施された点を鑑み、コロナ禍で海外の研究者との意思疎通が停滞したが本研究課題は一定成果を得て終了できたと考える。
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