研究課題/領域番号 |
20K12151
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
一宮 睦雄 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (30601918)
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研究分担者 |
久米 元 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (00554263)
小森田 智大 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (10554470)
小針 統 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (60336328)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 黒潮分岐流域 / 植物プランクトン / 動物プランクトン / 仔魚 / 黒潮 |
研究実績の概要 |
【黒潮分岐流-沿岸フロントにおける植物プランクトンブルーム発生機構】鹿児島湾内-湾外のフロント域における植物プランクトンブルーム発生要因を解明するため、環境(水温・塩分・栄養塩)データの解析を行った。解析は2015年2月~2017年4月に行われた研究航海で得られたデータを用いて行った。その結果、毎年春季に湾口域において植物プランクトンブルームが発生していることを見出した。湾内に黒潮由来の暖水が流入すると、栄養塩を多く含む湾内水が湾外へ流出する際、湾口域で表層水と混合することによって発生すると推察された。 【黒潮分岐流による沿岸起源の植物プランクトンの取り込み過程】フロント域で発生する植物プランクトンが湾外を流れる黒潮分岐流へと取り込まれる過程を、沿岸、フロント、黒潮分岐流由来の水塊の分布状況から評価した。解析は2018年および2019年3月の研究航海で得られた環境および生物データを用いて行った。その結果、沿岸由来の低塩分水が湾外へ運ばれているとともに、植物プランクトンも輸送されていることが明らかとなった。すなわち、湾口で発生した植物プランクトンの一部が湾外に流出し、黒潮へと合流する大隅海峡域の低次生産を高めていると考えられた。 【黒潮分岐流による植物プランクトンの輸送量と高次栄養段階への転送量】黒潮分岐流に取り込まれた植物プランクトンが、下流の大隅分岐流へ輸送される過程および動物プランクトンや仔魚への捕食による高次栄養段階への転送量を評価した。解析は、2018年および2019年に行ったラグランジュ観測時に得られたデータを用いて行った。その結果、植物プランクトンだけでなく、メソ動物プランクトンおよび仔魚現存量が湾口域で高く、さらに大隅海峡においても高くなっていた。植物プランクトン、メソ動物プランクトンおよび仔魚が湾外に輸送されていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【植物プランクトンブルーム発生機構】これまで鹿児島湾を含む北部薩南海域は回遊性魚類の重要な産卵場であると指摘されながらも、餌環境など詳細な海洋環境データは不足していた。本研究によって、鹿児島湾口周辺で毎年春季に植物プランクトンブルームが発生していることを見出したことは、仔魚の餌環境を評価する上で大きな前進であった。さらに、湾内に黒潮由来の暖水が流入すると表層へ栄養塩が供給されるというメカニズムは、本来貧栄養である黒潮が沿岸域の低次生産力を高める役割を果たしていることを示している。このことは、北部薩南海域に特異的な現象ではなく、黒潮流域の沿岸域でも同様の現象が起こっていることを示唆する。 【植物プランクトンの取り込み過程】2018年および2019年3月の研究航海によって、ほとんど研究されてこなかった黒潮分枝流下流域のデータが得られた。顕微鏡観察による生物データを用いた解析により、湾外においても沿岸性の植物プランクトンが増殖していたことを明らかにした。沿岸水が湾外の黒潮分枝流へ運ばれていることを示すとともに、水温・塩分などの環境データだけでは捉えられない情報を得ることができた。 【植物プランクトンの輸送量と転送量】2018年および2019年に行ったラグランジュ観測によって、湾口で発生した植物プランクトンおよびメソ動物プランクトンだけでなく、魚類仔魚が湾外に輸送されていることを明らかにすることができた。これまで回遊性魚類の主産卵場は台湾沖の東シナ海と考えらえてきたが、本研究によって薩南海域もまた重要な産卵場となっている可能性を提示することができた。 本年度の調査・研究で得られた成果により、すでに国際誌2件、国内誌2件を発表している。さらに、国内学会2件の学会発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
【植物プランクトンブルーム発生機構】2015年2月から2017年4月までに行われた研究航海で得られたデータを用いて論文化を進める。研究成果の一部はすでに学会発表されており、国内学会誌に投稿中である。植物プランクトンブルーム発生機構をより詳細に捉えるため、2021年3-4月に鹿児島湾内および湾外域において、高頻度海洋調査を行った。現在、得られた環境データ、海水サンプルおよび生物試料の分析および解析を進めている。さらに、2022年3月に同様の高頻度調査を行う予定である。 【植物プランクトンの取り込み過程】2018年および2019年の研究航海で得られたデータを用いて、日本プランクトン学会秋季大会において研究成果を発表する。その後、研究成果の論文化を進める。2020年7月に行った研究航海で得られた環境データ、海水サンプルおよび生物試料の分析および解析を進める。採集された環境DNAサンプルのDNA抽出及びシーケンスは外注済である。メタバーコーディング解析によって植物プランクトン各種のリード数データを得、群集組成を明らかにする。PCソフトのPrimer 7を用いて測点間における植物プランクトン群集組成の類似度を算出し、沿岸-フロント―黒潮分岐流の水塊区分を行う。 【植物プランクトンの輸送量と転送量】2018年および2019年に行われた研究成果を、日本プランクトン学会秋季大会において発表し、その後論文化を進める。2021年3-4月に鹿児島湾内および湾外域において行った調査では、植物プランクトンの高次栄養段階への転送量を測定するための各種現場飼育実験を行った。得られた環境データ、海水サンプルおよび生物試料の分析および解析を進める。
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