研究課題/領域番号 |
20K12152
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松本 淳 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (70402394)
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研究分担者 |
加藤 俊吾 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 准教授 (20381452)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 揮発性有機化合物 / 自然発生源 / 植物 / 放出特性 / 大気化学反応 / 反応性 / 温度依存 / オゾン |
研究実績の概要 |
(目的)大気汚染の研究では、生物起源揮発性有機化合物BVOCs の植物から大気への放出特性の解明が急務となっている。代表者はこれまでに、BVOCs をオゾン反応性RO3 として包括的に捕捉する装置 RO3 計を世界に先駆けて実用化し、狭山丘陵での森林大気観測試験を実施して、従来法で捕捉困難な未測定成分の重要性を示してきた。本研究では、独自に構築し森林大気観測の実用化に成功してきた RO3 計を発展させ、発生源である植物の直近における RO3 を直接測定する測定系を新たに構築し、植物から大気への BVOCs 放出挙動を RO3 として包括的に把握する放出測定実験を試みて、BVOCs の挙動とその支配要因の詳細な把握を目指す。 (計画)そのために、(1) 枝エンクロージャー法 BE とRO3 計を組み合わせた BVOCs 放出測定装置 BE/RO3 計の新規確立と室内実験による検証、(2) 森林観測地点近傍の植生を対象とする放出測定の試みと事例の蓄積、(3) 得られる放出特性と以前に得た観測結果を組み合わせた BVOCs 挙動の定量的考察、に 3 年間で挑む。 (成果)当該年度には室内実験を中心に実施し、計画 1 について次の成果を得た。形状・寸法・構成・材質・流量等の条件を試行錯誤しつつ構築した BE を RO3 計に接続して、VOC 標準試料に対する装置の応答を検証した。その結果、対象植物試料の寸法に応じて選定可能な複数の BE 設定パターンを実現した。さらに、実験室内において、試作 BE 内に植物の苗の一部を入れ、温度と光量を変化させて環境要因の日変化を模擬的に再現しつつ、植物放出 BVOCの応答を調べた。その結果、苗からの BVOCs 放出の特性と時間変動を RO3 として包括把握できることを実証し、実地測定に向けた準備として一定の成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(理由) 本研究は、大気試料にオゾンを添加する際のオゾン濃度の変化量を高精度にモニターすることで、揮発性有機化合物 VOCsをオゾン反応性として包括的に評価する独自装置 RO3 計を活用しつつ、新たに放出測定系 BE と組み合わせることで、森林における植物由来揮発性有機化合物 BVOCの放出特性の把握・解明に貢献することを目指している。当該年度は、測定系BE/RO3 の構築まで実施し、植物由来 BVOCs の放出速度を RO3 として直接包括的に捕捉することに初めて成功しつつ、BVOCs放出の温度や光量への依存性を示唆するなど、計画 1 に関してはおおむね順調に進展した。このことは、今後の研究遂行に十分に貢献すると期待される。しかしながら、2020年4月の本研究課題開始と前後して、新型コロナ感染症の流行に伴う緊急事態宣言が発令されたうえ、代表者の所属機関(大学)でも在宅研究が要請され敷地内への立入が制限されたため、本研究の活動は大いに制限された。その後も感染は収束せずむしろ拡大の様相さえ示すこともあり、心おきなく研究を遂行できない状況が継続している。本研究では計画2、特に気温が高く日射の強い夏季の実地測定試験が重要だが、本年度は春の研究開始以降の進捗遅延のため、実施できなかった。その後の感染症対策と並行する不自由な状況下で、かろうじて計画1 の重要な点を遂行したのが現状である。以上のことから、上記区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画にしたがって、今年度までに構築したBE/RO3 測定系を活用し、研究計画の各課題について、以下を推進する方針である: (1) 測定系の特性に関する室内での基礎実験データ蓄積を継続する。また、実地測定状況を考慮して必要に応じてさらなる改良を施す。(2) 狭山丘陵の森林における植生から大気への BVOC 放出の実地測定試験を随時実施し、実地での測定手順等を確立しつつ、事例を蓄積する。特に、キャニスター捕集による BVOCs 個別成分分析も同時に実施し、捕捉される RO3 値の内訳について検証できるようにする。(3) 蓄積される測定結果に基づいて、RO3 としての BVOC 放出の支配要因や特性についての検証を進める。なお、(2) の実地試験結果に基づく (1) の装置の再検証や改良は、当初計画では交互に繰り返す予定であったが、前述の進捗の遅れに対応するために、並行での実施や繰り返し回数の削減も検討する。これによって、感染症に伴って研究期間が実質的に短縮したといえる現状でも、計画に沿った遂行を目指す。ただし、状況が改善せず研究遂行にこれ以上の支障をきたす場合には、4年目への延長手続きも視野に入れる。以上を含めて、本研究にて得られる成果は学会等において発表し、本研究の独創性を内外にアピールして、今後のさらなる発展につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は今年度にBE/RO3測定系の準備を完了したうえで実地測定試験への活用を試みる予定であったが、別記(*)の感染症に関する事情に伴い、今年度に使用を予定していた多くの関連物品の調達に至らなかった。キャニスター捕集による個別成分分析など、今年度に実施できなかった各項目に関連する用品・消耗品等については、次年度に調達するようにする。当初計画に示した通り、本研究では夏季の実地測定を最重要視しており、今後は特にそこに研究資源を集中する。ただし、今後の感染拡大の状況(**)に注意して、臨機応変に進めていくものとする。(*)2020年4月の本研究課題開始と前後して、新型コロナ感染症の流行に伴う緊急事態宣言が発令されたうえ、代表者の所属機関(大学)でも在宅研究が要請され敷地内への立入が制限されたため、本研究の活動は大いに制限された。本研究では計画2、特に気温が高く日射の強い夏季の実地測定試験が重要だが、本年度は春の研究開始以降の進捗遅延のため、実施できなかった。(**)2021年4月時点でも感染は収束せず、油断できない状況が継続している。
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