研究課題/領域番号 |
20K12161
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
勝木 陽子 京都大学, 生命科学研究科, 特定講師 (00645377)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ICL修復 / ファンコニ貧血経路 / SLX4 / ユビキチン化 / フォーカス形成 / BioID |
研究実績の概要 |
本研究は、ファンコニ貧血(FA)原因遺伝子SLX4/FANCPのユビキチン化経路を介した集積メカニズムの解明を目的とする。SLX4はDNA修復におけるエンドヌクレアーゼ複合体スキャフォールド分子で、N末端にUBZ4型ユビキチン結合モチーフをもつ。このUBZ4ドメインのホモ欠失変異により患者はFAを発症すること、ユビキチン結合変異体の発現細胞がクロスリンク(ICL)損傷剤に高感受性であることから、このドメインはFA発症を抑制するICL修復機構に必須と考えられている。既報からSLX4 UBZ4はK63ポリユビキチン鎖に結合し、損傷部位への集積に機能するが、そこに介在するユビキチン化経路の分子メカニズムは明らかにされていない。 今年度の研究ではまず、質量分析を行うサンプルのGFP-SLX4-Nの可溶化条件を検討するため、組成の異なる複数のバッファーで抽出を行った。またホルムアルデヒド(HCHO)によるタンパク質間架橋を行い抽出を試みた。一方、難溶性タンパク質の結合因子の同定、不安定なタンパク質間結合の検出に優れた、近位依存性ビオチン標識法(BioID)を検討した。共同研究者の助言を得てBirA*の高活性化型TurboIDを用いることとし、プルダウンには結合の特異性が高くreversibleなTamavidin 2-REVを用いた。サンプルには、TurboIDを融合したUBZ4ドメイン野生型、およびユビキチン結合能をもたない変異型のSLX4-Nを、レンチウイルスベクターによって恒常的に発現したヒト細胞株U2OSを用いた。DNAクロスリンク損傷誘導剤マイトマイシンC(MMC)処理前後のサンプルで抽出液を調整し、共同研究者協力のもと、ビオチン化タンパク質のプルダウン後質量分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、高塩濃度、グアニジン塩酸塩や尿素等の変性剤、より高濃度のSDS添加など、細胞抽出液を調整するバッファーの条件を検討し、GFP-Trapによる免疫沈降-質量分析を行った。その結果、従来のHEPES-RIPA bufferがより最適な条件であることが示唆された。そこで次に、サンプル中の細胞数を増やし、HCHOによるタンパク質間架橋前後でタンパク質抽出を試みたところ、GFP-SLX4-Nの検出数が架橋処理により顕著に低下したため、従来のHEPES-RIPA bufferでの抽出による相互作用因子の探索を検討した。しかし再現実験によって候補因子である可能性が強く示唆される分子はみとめられなかった。 次にBioID法を用いてUBZ4依存的なSLX4-N会合因子の質量分析を2回行った。1回目は各サンプルN=1、2回目はN=4で行った。2回目の分析に用いたサンプル群では、1回目と比較してビオチン化の効率がやや低かったため、1回目の分析結果から候補因子を検討し、その中で両結果に共通してMMC処理後UBZ4野生型でビオチン化がみとめられるタンパク質を絞り込んだ。その遺伝子群において、これまで代表者らが実施したsiRNAスクリーニングの結果と照合したところ、SLX4-NのICL損傷部位への集積に影響をおよぼすと考えられる分子がいくつか認められた。
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今後の研究の推進方策 |
今回BioID法で検出された候補因子は、従来の免疫沈降法による目的分子(SLX4)との結合の確認は困難であると考えられ、どのように会合を確認するかが課題である。今後、これらの分子のいずれかがSLX4-UBZ4結合因子としてSLX4の損傷部位への集積に機能するか否かあきらかにするため、1)K63ポリユビキチン化の基質となるか、2)RNF168の基質であるか、3)ICL誘導剤に対する感受性に関与するか、等を判断基準として、ユビキチン化アッセイやノックアウト細胞の作成、ノックダウン後の相補実験などによって検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の研究計画実施にあたり、他大学研究所との共同利用にも再採択され、当初予定していた質量分析などにかかる費用の負担が軽減された。 次年度SLX4 UBZ4結合因子を同定し、その機能を検討するための分子生物学的解析に用いる試薬、消耗品の必要経費が当初の予定を上回ることが見込まれる。高額な試薬やキット製品、解析費用に充てる計画である。
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