本研究の目的は、ファンコニ貧血(FA)原因遺伝子SLX4のユビキチン化経路を介した集積メカニズムの解明である。SLX4はDNA修復におけるエンドヌクレアーゼ複合体因子で、N末端にUBZ4型ユビキチン結合モチーフをもつ。UBZ4ドメインのホモ欠失変異により患者はFAを発症する。またユビキチン結合変異体発現細胞はDNAクロスリンク(ICL)損傷剤に高感受性を示すことから、このドメインはFAの発症を抑制し、ICL修復に必須と考えられている。SLX4 UBZ4はK63ポリユビキチン鎖に結合し、損傷部位への集積に働くことが示されているが、そこに介在するユビキチン化経路は明らかにされていない。 前年度に共同研究者の協力を得て、近位依存性ビオチン標識法(BioID)を用いてUBZ4依存的なSLX4-N(N末端1-900アミノ酸)結合因子の同定を試みた。その結果をSLX4-NのICLへの集積を指標としたsiRNAスクリーニングの結果と照合したところ、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の構成因子群が重複して検出され、その中でARID1A/Bが結合因子候補である可能性が示唆された。そこでまずmammalian two hybrid(M2H)を検討したところ、SLX4-NとARID1Aの結合が認められた。一方、先行研究でSLX4-NのICLへの集積を促進することが示されたE3ユビキチンリガーゼRNF168の既知の基質であるヒストンH2Aと、SLX4-Nの結合は検出されなかった。SLX4-N UBZ4変異体は野生型に比べてARID1Aとの結合は低下したが、完全には抑制されなかったため、UBZ4依存性は現時点では明らかでない。今後は免疫沈降-ウエスタンブロットやユビキチン化アッセイを用いて、ARID1AのRNF168依存的なユビキチン化がICLによって起こるかどうかを検討する予定である。
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