研究課題/領域番号 |
20K12172
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
香崎 正宙 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 講師 (90717977)
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研究分担者 |
安藤 隆幸 静岡県環境衛生科学研究所, 医薬食品部, 主査 (40402226)
石川 吉伸 湘南医療大学, 薬学部医療薬学科, 教授 (00305004)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DNA修復経路 / RECQL4 / BRCA変異がん / RAD52 / 担がんマウス / スクリーニング系 / 極低用量 / 経口投与 |
研究実績の概要 |
小さな欠失が生じやすいAlt-EJ (alternative end-joining)経路を阻害することが知られているPARP阻害剤のOlaparibが、2020年にBRCA遺伝子変異転移性膵臓がん患者への適用が(Golan et al, NEJM, 2019)、米国、欧州に続いて我が国でも承認された。これまでに、BRCA遺伝子変異卵巣がん/乳がん患者に対するPARP阻害剤の効果についてはよく知られていたが、予後が悪いことで知られる転移性膵臓がん患者の約5~7%で生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異が認められるので、日本で数千人規模、世界では数万人規模の転移性膵臓がん患者に対して、Olaparibによる抗がん剤治療が有効であると期待されている。しかし、依然としてPARP阻害剤による薬剤耐性問題は克服されていないことから、Alt-EJ経路と同じDNA基質から大きな欠失が生じやすいSSA(single-strand annealing)経路因子のRAD52を阻害する抗がん剤の開発が世界的に注目を集めている。 申請者らはこれまで、希少がんの骨肉腫を好発するRECQL4欠損遺伝性疾患患者のモデル細胞を樹立し、がん治療に伴うDNAダメージに対するDNA修復経路の選択機序に関する解析を進めたところ、RECQL4を欠損するがん細胞では、Alt-EJ活性が低下する一方で、SSA因子のRAD52が亢進するという、興味深い新しいがん細胞の特徴を発見した(Kohzaki, Int J Cancer, 2020)。RECQL4欠損がん細胞では、極低濃度領域のRAD52阻害剤を経口投与によって、有意に抗腫瘍効果があることがマウスXenograftでも判明している。そこで、この特殊なRECQL4欠損がん細胞を用いて、社会的波及効果の高い、安全で安価な革新的抗がん剤のRAD52阻害剤の開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までは、RAD52阻害剤のスクリーニング方法のスループット性に課題があり、製薬企業等からも度々指摘されてきた。そこで、イメージサイトメーター(ICM)を利用してスクリーニング方法を改良し、解析時間を約25倍短縮することに成功した。また、この改良法を使った新規スクリーニングを実施して、短期間でハイスループットスクリーニングを実施できる点も確認できている。さらに、マウス血漿中の化合物Cの血漿中濃度定量下限を、LC-MS/MSのSCIEX QTRAP 6500を使って検証し、10pmol/mLの検出感度を認めたので、POCの強化が可能である点を確認できている。以上より、RAD52阻害剤の実用化へ向けた基盤が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に、これまで得られた複数のリード化合物が、既存のRAD52阻害剤と同等かそれ以上に、RECQL4欠損がん細胞に対して抗腫瘍効果を示すことを、 in vitroとin vivoで明らかにした。今年度は、相同組換えが欠損している様々な種類のBRCA欠損がん細胞に対してRECQL4を欠損させて、がん細胞におけるDNA修復経路の選択肢が絞られた場合の、シスプラチンやPARP阻害剤等のがん治療に加えて、新規RAD52阻害剤に対する反応と、その分子機構の解明を目指して研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の異動に伴い、研究室のセットアップや講義の準備等をしなければならなかったために、実験に使うために費用を翌年に繰り越したことで、次年度使用額が生じた。
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