研究実績の概要 |
小さな欠失が生じやすいAlt-EJ (alternative end-joining)経路を阻害することが知られているPARP阻害剤のOlaparibが、2020年にBRCA遺伝子変異転移性膵臓がん患者への適用が(Golan et al, NEJM, 2019)、米国、欧州に続いて我が国でも承認された。これまでに、BRCA遺伝子変異卵巣がん/乳がん患者に対するPARP阻害剤の効果についてはよく知られていたが、予後が悪いことで知られる転移性膵臓がん患者の約5~7%で生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異が認められるので、日本で数千人規模、世界では数万人規模の転移性膵臓がん患者に対して、Olaparibによる抗がん剤治療が有効であると期待されている。しかし、依然としてPARP阻害剤による薬剤耐性問題は克服されていないことから、Alt-EJ経路と同じDNA基質から大きな欠失が生じやすいSSA(single-strand annealing)経路因子のRAD52を阻害する抗がん剤の開発が世界的に注目を集めている。 申請者らはこれまで、希少がんの骨肉腫を好発するRECQL4欠損遺伝性疾患患者のモデル細胞を樹立し、がん治療に伴うDNAダメージに対するDNA修復経路の選択機序に関する解析を進めたところ、RECQL4を欠損するがん細胞では、Alt-EJ活性が低下する一方で、SSA因子のRAD52が亢進するという、興味深い新しいがん細胞の特徴を発見した(Kohzaki, Int J Cancer, 2020)。RECQL4欠損がん細胞では、極低濃度領域のRAD52阻害剤を経口投与によって、有意に抗腫瘍効果があることがマウスXenograftでも判明している。そこで、この特殊なRECQL4欠損がん細胞を用いて、社会的波及効果の高い、安全で安価な革新的抗がん剤のRAD52阻害剤の開発を進めている。
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