研究課題/領域番号 |
20K12173
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
福本 学 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 客員主管研究員 (60156809)
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研究分担者 |
大野 剛 学習院大学, 理学部, 教授 (40452007)
山本 直樹 藤田医科大学, バイオリソース室, 教授 (00267957)
鈴木 正敏 東北大学, 災害科学国際研究所, 講師 (60515823)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 福島第一原発事故 / 野生ニホンザル / セシウム137 / 精巣 / 内部被ばく |
研究実績の概要 |
福島第一原発事故に被災した野生ニホンザルから得られた臓器や血液サンプル数は令和4年度に113頭で、現在までに総計826例を集積し、現在も採材を継続している。大腿筋中のセシウム137濃度の平均は、南相馬市での捕獲群で1,200 Bq/kg、浪江町群で928 Bq/kgと、内部被ばくが事故後10年以上経過しても継続していることが明らかとなった。以前は南相馬市群に比べて浪江町群で高濃度汚染であったが、両群で近づいてきている。群間で個体が行き来しているためと考えられる。 被災サル精巣への被ばく影響を解析した。非被災野生サル骨格筋中のセシウム 137 濃度は5.6 Bq/kgであり、被災サルに比べて無視できる放射能であった。両群の精巣組織では、ともに活発な精子発生が観察され、明確な違いは認められなかった。 そこで、精上皮のステージを決定し、PCNA免疫染色による増殖中の精細胞と、活性型カスパーゼ-3免疫染色によるアポトーシス精細胞と、精上皮のステージ上で特異的なそれぞれの細胞型を比較検討した。その結果、両群の精上皮で増殖している精細胞は、ステージ I ~ VIの B型精祖細胞、ステージ VII および VIIIのプレレプトテン一次精母細胞、ステージ IX のレプトテン一次精母細胞、ステージ X、XIのザイゴテン一次精母細胞、そしてステージXII-VIIのパキテン一次精母細胞であった。 一方、精上皮のアポトーシス精細胞は、ステージ I ~ VI の B型精祖細胞、ステージ VII および VIIIのプレレプトテン一次精母細胞、ステージ IXのレプトテン一次精母細胞で観察されたが、被災サルも非被災サルもわずかな頻度であった。 このように、精上皮の段階での増殖中の精細胞とアポトーシス精細胞およびそれらの特定の細胞型では、両群間で明らかな違いは確認されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
被ばく線量の評価には歯の脱灰標本での年齢査定が必須である。また、各臓器から顕微鏡組織標本の作製が必要である。どちらも熟練を必要とするが、現在、年齢査定も標本作製も教員と技師の異動によって人材が不在となり、後継の育成に手間取っている。放射線影響の有無を知るためには、比較対象となる非汚染地域に生息するサルの入手が必須である。有害獣として殺処分された個体の入手について複数自治体に依頼しているが十分な個体数の確保に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
福島第一原発事故の発災から12年が過ぎて、除染と復興は目覚ましいものがある。それに伴って減じているものの、いまだに野生ニホンザルの体内汚染は検出される。一方、肉眼的に明らかな異常を伴った個体は観察されていない。そのため、今後は系砂泥影響を見据えて観察が重要である。また、現在までに蓄積してアーカイブ化した試料について、正確な線量評価を伴った、オミックス解析と詳細な組織学的検索を行うことによって、低線量率・持続的長期被ばく影響を解析するとともに、アーカイブの重要性を証明する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担研究者の山本直樹が中心となって、福島第一原発事故被災野生サルの白内障についての論文を執筆中であり、投稿料として使用よていである。
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