研究課題/領域番号 |
20K12174
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
坂本 綾子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 上席研究員(定常) (00354960)
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研究分担者 |
横田 裕一郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主幹研究員(定常) (30391288)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒメツリガネゴケ / DNA修復 / ガンマ線 / 相同組換え / 染色体 |
研究実績の概要 |
DNAポリメラーゼζ(Polζ)を欠損したシロイヌナズナの変異体(rev3-1)は放射線に対して感受性を示すことから、植物のPolζがDNA二重鎖切断修復に関与していることが示唆されているが、その証拠は得られていない。本研究ではモデル植物であるシロイヌナズナおよびヒメツリガネゴケを材料に用いてPolζの新規機能の探索を行うことを目的としている。R2年度は、機能解析に向けての材料調製及び実験系の構築を行った。 1)DNA二重鎖切断修復プロセスにおける突然変異の検出のため、アデニンフォスフォリボシルトランスフェラーゼ(APT)遺伝子のゲノム領域を薬剤耐性遺伝子の両サイドにクローニングし、ヒメツリガネゴケのプロトプラストへ導入することでマーカー系統の構築を試みた。 2)ヒメツリガネゴケPolζ欠損株を作成するため、PpREV3遺伝子をターゲットとしたsgRNAをデザインし、ヒメツリガネゴケU6プロモーターの下流にクローニングした。このコンストラクトをCas9遺伝子とともにプロトプラストへ導入することでPpREV3遺伝子破壊株の作成を試みた。 3)リボヌクレオチドの取り込みを指標としてDNAポリメラーゼζの機能を追跡するため、ヒメツリガネゴケRNaseH2遺伝子をターゲットとしたsgRNAをデザインし、クローニングを行った。 4)高等植物の放射線応答反応で中心的な役割を果たす転写因子SOG1とPolζとの関連性を調べるため、シロイヌナズナsog1-1変異体とrev3-1変異体を交配し、F1植物を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、Polζの新規機能の探索を行う目的で実験系の構築を試みたが、外来遺伝子のランダム挿入に依存した方法は効率面に問題があることがわかった。また、形質転換体の維持の途中でクローンの性質が変化してしまうことがあり、対策が必要となった。 1)突然変異検出マーカーを構築するため、APT遺伝子領域を含む遺伝子をヒメツリガネゴケのプロトプラストへ導入し、G418耐性を指標に形質転換体のスクリーニングを行なった。その結果、多数のG418耐性コロニーを得ることができたが、培養を継続するうちに徐々に耐性が失われた。これは、マーカー遺伝子を含むプラスミドが細胞内で比較的長期間保持されることに由来する現象と思われた。 2)ヒメツリガネゴケPolζ欠損株を作成するため、PpREV3遺伝子をターゲットとしたsgRNAをCas9遺伝子とともにプロトプラストへ導入することでREV3遺伝子破壊株の作成を試みた結果、G418耐性コロニーを得た。コロニーからゲノムDNAを抽出してシークエンスした結果、REV3領域に欠失がみられたことからゲノム編集反応が想定通りに起こったことが確認できた。しかし、REV3欠損コロニーの一部は2倍体化が起きていることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
R3年度は、前年度の結果を踏まえ、ゲノム編集を利用することでマーカー系統の構築を試みる。また、形質転換体を慎重に維持・管理することで安定に保ち、Polζの機能解析のためのデータ収集を開始する。 1)APT遺伝子領域と薬剤耐性遺伝子を含むプラスミドを、ゲノム上の特定領域をターゲットとしたsgRNA及びCas9遺伝子とともにプロトプラストに挿入し、形質転換体を作成する。コロニーをG418を含む培地上で継体することでマーカーの脱落を防ぎ、安定に保持する。 2)ゲノム編集の方法で、PpREV3およびPpRNaseH2の欠損変異体を単離し、ガンマ線やイオンビームに対する感受性を調べるとともに、処理後のDNA複製効率などを解析する。また、ゲノムDNAを抽出し、リボヌクレオチドの取り込み状況を解析する。 3)シロイヌナズナrev3-1変異体、およびsog1-1 rev3-1変異体に対してガンマ線やイオンビームを照射し、根の伸長などを指標に感受性解析を行う。また、根端組織でのDNA複製効率を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画ではマーカー系統を利用して突然変異の検出を試みる予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大防止措置等のために実験作業が制限された期間もあり、予備試験等のための消耗品費の多くが未使用となった。R3年度は、未使用額の一部を用いて実験補助員を雇用し、効率的に実験を遂行することで遅れを取り戻す予定である。
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